【瞬side】

 …最近思うんだけれど…。
 雅季兄ちゃんって、奏お姉ちゃんのこと、どう思ってるんだろう。

 いつも表情変えず冷静な雅季兄ちゃんだから…はっきりとはわからないけれど。

 雅季兄ちゃんも…好き、なのかな?

 そうだとしたら。いや、そうだとしても。
 これだけはお兄ちゃんでも譲れないや。

「瞬くん?」
「え?」
「どうかしたの?」

 廊下を歩いていた…つもりだったけれど、どうやら僕の歩みは止まっていたみたいだ。
 そこをたまたま通りかかった奏お姉ちゃんに声を掛けれた。

 ちょっと、嬉しい。

「ううん。なんでもない」
「考え事?大丈夫?」
「大丈夫だよ。ありがとう、お姉ちゃん」

 そう言って視線を落とした先に見えたもの。
 それは…

「あれ?奏お姉ちゃん、勉強?」
「あ、そうなんだ。どうしてもわからない宿題あって。これから雅季くんに教えてもらいに行くところなの」
「そ、そうなんだ…」
「さっきその話をしたら教えてくれるって言ってたから。今から部屋に行くんだ」

 ふわりと笑って答える奏お姉ちゃん。
 その笑顔、僕は大好きだけれど。

 …ちょっと引っ掛かる。

「瞬くん?」
「え?何?」
「いや、急に黙り込んだから…」
「あ、ごめん。大丈夫」
「そっか。じゃあ、またね?」
「うん」

 また一つ笑顔をくれた奏お姉ちゃん。
 そしてその後姿をじっと見つめる僕。
 当たり前だけれど、お姉ちゃんは雅季兄ちゃんの部屋へと向かっていった。

 わかってる。わかってるけれど。

 負けたくない。雅季兄ちゃんにだって。


「要さーん…」
「裕次様。見られてましたか…?」
「ば、ばっちり。会話まで聞こえてきちゃった」
「私も…聞くのはどうかと思ったんですが、どうしても耳に入ってしまって」
「あんなに悔しそうな顔してる瞬くん、俺…初めて見たよ」
「私もあんなに嬉しそうな笑顔の瞬様を初めて見ました」
「…どうなるんだろ」
「さ、さぁ…わかりかねます…ね」


 僕の耳には、裕兄ちゃんと要兄ちゃんの会話は届かなかった。

 足早に…自分の部屋へと戻ったのだから。


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