放課後。
 巧は宣言通り、生徒会室に遅れてやってきて。あまり多くはない仕事を手早く片付けると、また急いで部活へと走って行った。
 僕はと言えば。なんとなく、のんびり帰りの支度をして…もう殆ど人の気配のない昇降口へとやってきたところだ。
 特に…約束をしていたわけではない。
 彼女の靴箱をさっと横目で見ると、そこには上靴が丁寧に置かれていた。
「まぁ、時間も時間だし、な」
 何か裏切られたような変な気分に駆られながら、夕暮れの道を一人歩いていった。

 グラウンドではサッカー部の姿。
 いつもは騒がしいくらい笑っている雅弥と巧の真剣な姿が、少し遠くからでもすぐにわかった。
 その周りにはうるさいほどの女子の声。多分、目当ては二人の内のどちらかなんだろう。
 他に、陸上部が練習する姿が遠目に見える。
 その先にやたら眩しい夕陽があったものだから、思わず目を細めた。
 すたすたと足早に校門をくぐり抜けようとしたその時だ。

「雅季くん!」

 後ろから自分を呼ぶ声。
 その声の主は…すぐにわかった。
 振り返って確かめるその姿。夕陽が被って少しだけ眩しかった。
「今、帰り?一緒だね!今日も歩きなの?」
 早口気味なその声と屈託のない笑顔。
「そうだけれど…」
 それに対して、素気ない態度しか取れない自分がどこかもどかしい。
「ねぇ、雅季くん」
「…何?」
 そう言いながら、なんだか恥ずかしくなってきて思わず歩き出そうとする。
 が。その歩みはすぐにまた止まった。

「一緒に帰っても…良い?」

 その声の先には君。
 少しだけ頬が赤く見えたのは、夕陽のせい?

 そうじゃないと…嬉しいかも。

「…帰るよ?」
 そんな彼女に対しても、こんな態度しか取れない自分。
 だけれど。
 本当は…すごく嬉しいって事、わかってる?

「うん!」

 駆け寄る君。半歩後ろにつくと嬉しそうに笑っていた。

「ねぇ?」
「何?雅季くん」

 そんな君に、僕は…こういうよ。
 一応…結構頑張ってるんだ。
 そこのところ、出来たらわかって。

「隣にくれば?」

 にっこりと笑った奏の顔すらしっかり見れない僕だけれど。
 たまには、いいでしょう?こんな日も。

 だけれど、覚えていて?
 きっとその内、違う言い方で君に伝えるから。

『隣に居てよ』

 たった一言。それだけ。



―Fin―


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