「その時ね、角砂糖…入れすぎちゃって。最初はよかったんだけど、後が甘ったるくて」
 ガトーショコラを食べていたから尚更、と奏は続ける。
 その顔は失敗をした子どもみたい。
「それからね、角砂糖はいつでも一つだけって決めたんだ」
 言い終わると、奏はこちらを向きながら恥ずかしそうに笑った。
「ふふっ。奏らしいかも」
「えぇ、何それ…」
 笑い合いながら、ガトーショコラを一口、一口と口に運んでいく。

 暫く笑い合った後、手を止めて彼女を見つめた。

「でも…」
「え?」

 そして、不意討ち。

 チュッとリップ音を立てて、彼女の唇についていたクリームを取る。

「俺は、奏とのキスは甘ったるいくらいの方が良い」

 そう言ってにっこり笑った後、
 奏の顔が真っ赤になったのは言うまでもない。


 角砂糖を一つだけ。
 君とのキスを、

 いつもよりも甘くするために。


―Fin―


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