それから、私は休みの日を確認するとすぐに報告に行った。
 それは今度の日曜日。
 奏お嬢様は笑顔でその言葉を聞いていた。そんな様子を見て、こちらもつい笑顔がこぼれる。
 話し終えて、パタンと小さな音を立ててドアを閉める。と、踵を返し部屋に戻ろうとした時、また声を掛けられた。
 今度の声の主は彼女ではなかったけれど。
「要くん」 
 返事をし振り返る。そこに居たのは長身で黒髪の彼だった。
「修一様。どうなされましたか?」
 丁寧に小さく会釈をして笑顔を向ける。彼もまた笑顔だった。
「いや、さっき奏の声が聞こえて君と一緒に居るのを見たからね。何かあったのかと」

 し、修一に見られていたのか。

「そうでしたか。いえ、修一様がご心配になるようなことはありませんよ」
 とても「お嬢様にデートに誘われていました」とは言えなかった。
 なぜなら、彼は…ちょっと過保護というか…お嬢様に対してはもはやシスコンに近いものが…。
「そうだったんですか。それなら良いですが」
 彼は笑顔のまま話す。なんだか、その奥の見えない笑顔がなんとなく怖く感じた。
「では、失礼致します。修一様」
 ここは早めに部屋に戻るのが上策だろう。自分の心のどこかで警鐘が鳴っている。今の彼は…どこか危険な気がする。
「あぁ、呼び止めてすまなかったね。要くん」
「いえ」
「…奏さんの頼みだったから何も言えないが…まぁ、今度の休みの日はくれぐれも気をつけて」
「え!?」
 その言葉につい声が出てしまった。
 しかし、彼はその言葉に反応することはなくそのまま自室へと戻っていった。
「し、しっかり聞いてたじゃないか…」
 少しだけ冷や汗をかいてしまった。やはり、自分の中で発せられた危険信号は間違っていなかったようだ。

 …気をつけておこう。この分だときっと他のご子息の耳にも入る…。

 そう、心の中で呟くのだった。
 その後、その言葉は見事に的中する。
 裕次様や瞬様の態度は見てわかるほど明らかだったが、雅季様と雅弥様もどことなく態度が違うように思えた。
 明らかに嫉妬されている気がする…。
 奏お嬢様からのデートのお誘いというのは、それほどまでにすごいことなのだ。
 本当に救いなのは、これが『お嬢様からの誘い・お願い』というところだと思う。
 そうじゃなかったら、今頃…。
 考えるだけで少し冷や汗が出たので、それ以上は考えるのをやめた。


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