目の前に置かれているのは、ガトーショコラ。
白いクリームにチョコ色が、ただでさえ綺麗なのに。そこには小さなミントの葉が乗っている。鮮やかな緑が一層映えてみえた。
奏は赤い頬のまま、ガトーショコラを口に運んでいった。
一口入る度に顔が緩むのが、見ていてもすぐに分かった。
「本当に好きなんだね」
「う…そんな顔してた?」
「うん。すごく可愛いよ?」
どうなるか知っていても口から出てくる言葉。
君は、あっという間に赤くなるね。
「もう…裕次ってば」
「だって、本当だし」
一口口に入れてから、わざと口を尖らせてみたりして。
口に入れた甘いそれはみるみる内に溶けていく。
まるで、君とのキスみたい。
「そういえば。どうして奏は一つだけ入れるの?角砂糖」
「え?」
急な質問に一瞬動きが止まる。
が、それはすぐにまた動き出した。
「だって、奏…コーヒーはもっと甘くするでしょ?紅茶は必ず一つだけだから」
「うーん…それはね…」
そう言うと、奏は溜め息にも似た呼吸を一つ。
「理由があるの」
「理由?」
聞き返すと、彼女は口許に笑みを残しながら眉を下げた。
「コーヒーはね、苦いから甘くしないとダメなんだけど」
「うん」
「紅茶もね?最初の頃は二つとか…三つ入れたときもあったな」
そこまで言ってから、彼女はガトーショコラに目を落とす。
「ある日ね。ケーキ屋さんで買ってきた…ガトーショコラを食べてたの」
彼女は話を続ける。
少し冷たい風が暖かい陽射しを纏ったまま、吹き抜けた。
「今みたいな…イイ紅茶じゃなくてね、インスタントのやつを淹れて飲みながらケーキを食べてたの」
「うんうん」
俺はひたすら彼女の話に耳を傾けた。
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