「奏ちゃん!」
「裕次お兄ちゃん!ビックリしたー…」
「なんだよ、裕兄」
雅弥と話していた奏ちゃんを後ろからぎゅっと抱きしめた。急に抱きしめられた奏ちゃんは、驚いてくるっとこっちを見る。その距離が少し近くて、自分でやったくせになんだかすごくドキドキした。
雅弥は少しだけつまらなそうな顔。知ってるよ。お前だって、奏ちゃんのこと気に入っているんだろう?
「今日も奏ちゃんは可愛いなぁと思って」
そう笑いながら、少しだけ耳元で囁くように言ってみる。
その言葉に彼女の顔は真っ赤。
「もう。またそんな気障な事言って…」
少し呆れたような言葉も、その顔じゃ少し説得力が無いよ。
雅弥はまだつまらなそうな顔。ちょっと取られた気分になったのかな。
…でも、奏ちゃんだけは譲れないなぁ。
だけれど。そんなことを思っているのは俺だけ。
「ほら、裕次お兄ちゃん。もう離れてよ…さすがに恥ずかしいから」
そう言って、俺の手をほどく君。
彼女のその仕草にすぐさま反応したのは、もちろん雅弥。
「そうだよ!今、奏は俺と話してるっつーの」
その言葉に奏ちゃんも「ね?」と俺に声を掛ける。
渋々、離れる自分。なんだか、ちょっと寂しい…。
そしてまた話を続けた2人。勿論、その会話に俺は入れない。内容もわからないし。
なんだか、すごくつまらない気分だ。
―これって、独占欲なのかなぁ…。
そんなことを考えながら、とぼとぼとその場を後にした。
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