ある日のこと。
 授業の関係で、一緒に帰れそうな日だった。だから、校門前まで彼女を迎えに行くことにした。
 色んな視線。色んな言葉。笑顔で交わして、笑顔でかわす。
 そんな中、待っている人はただ1人。
「まだ、かなぁ。そろそろな気がするんだけれど…」

 ―あ。来た!

「奏ちゃ…」
 さっきまでとは違う笑顔で彼女の名前を呼ぼうとした。けれど、言葉が喉の奥で引っ掛かったのがわかった。

 ―誰?

 彼女は誰かと話をしていた。女の子も近くにいたけれど…彼女の隣には男友達らしき人。
 その姿はとても仲が良さそうで楽しそうだった。
「あ!裕次お兄ちゃん!」
 彼女は自分の姿を捉えると、友達に別れを告げ駆け寄ってきた。いつもなら嬉しいはずの行動なのに。
 何かが心に引っ掛かっている。
「裕次お兄ちゃん?どうしたの?」
 いつもとは違う態度に疑問を持った奏が、不思議そうに自分の顔を覗く。
「え?いや、なんでもないよ!」
「本当に?」
 だって、まさか…こんな気持ちになっているなんて言えない。
「うん。本当。一緒に帰ろう?」
「うん!」
 この心の内を知らない彼女は満面の笑みを見せる。
 その姿はすごく可愛らしくて大好きなものなのに…。

 ―嫉妬?

 薄暗い黒い気持ちが胸の中で渦巻いていた。


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