「…裕次お兄ちゃん?」
「あんまりにも奏ちゃんが可愛いから。我慢できなかった」
 そう言うと、裕次お兄ちゃんはぐっと抱きしめる。強い強い力で。離れないように。
 そして、耳元でこう囁かれた。
「…それに。言ったでしょ?甘えていいんだよって」
 その言葉と行動に私は固まってしまう。すごく早いスピードで顔が熱くなる。
「裕次お兄…」
 名前を呼ぼうとしたら、さっと口元に指を当てられた。
「今は、裕次って呼んでよ」
 なんだか急に恥ずかしくなって、私はまたただ頷いた。

 急にそう言われると…上手く呼べないよ。

「裕…次?」
「なぁに?奏ちゃん」
 彼は満足そうに笑っていた。
「あ。でもね」
「うん?」
「甘えていいって言ったけれど…」
 そして、また耳元に声が近づく。
「今日は…俺が甘えても良いかな?」
 小さな小さなその声は、私の耳から入って全身を駆け巡った。私の身体を熱くするには充分な刺激で、私の顔はまたも真っ赤になる。

 こんなんじゃ、私心臓もたないかも…。

 そんなことを考えている私を余所に、裕次お兄ちゃんは私を自分の隣に寝かせると今度は私の腕の中にすっぽりと入ってくる。
「あー、落ち着く」
 ちょうど私がぎゅっと抱きしめるような格好になり、裕次お兄ちゃんは子どものように甘えていた。
 そんな彼を見て、私はそっと髪を撫でた。綺麗な金色の髪を。
 すると、裕次お兄ちゃんは急に私の顔を見上げる。なんだかその視線に妙にどきっとしてしまう私。少しだけ熱っぽい視線だったから。
「な…に?」
 その視線にドキドキしながらも、やっと出てきたたった一言だ。
「奏ちゃん」
「うん?」
 視線は私の目を捉えて離さない。
「…ちょーだい…」
「え?」
 そう言うと、服の間から少しだけ見えた鎖骨部分にキスを落とされる。
 長くて強いキス。あっという間にその場所に赤い痕がついた。
 その後も、近くにキスが降る。首筋、肩、鎖骨…。
 と、その時。急にふっと動きが止まった。
「ゆう…」
 名前を呼びかけてやめる。
 なぜなら…胸元から規則正しい寝息が聞こえてきたから。
「寝ちゃった…かな?」
 その姿は、なんだか本当に子どもみたいだった。

 いつもは子どもっぽいけれどしっかり大人な裕次お兄ちゃん。
 でも、今は本当に子どもみたいで。
 その顔を、姿を見ていたくて…。
 私はそっと髪を撫でながら、抱きしめるのだった。

 そして、今度は私がそっと耳元で囁く。

 ねえ?
 私にだって、いつでも甘えていいんだよ?


―Fin―


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