《奏side》


 誕生日前日。日付が変わる瞬間をどうしても起きて過ごしていたくて、私はなんとなく落ち着き無く待っていた。
 誕生日っていつもの1日がちょっぴり変わる。自分だけのためにある1日みたいだもん。
 そわそわと時計を見ながら待っていたら、小さなノックが聞こえた。

 …コンコン…コンコン

 私はその音で誰が来たかすぐにわかった。
 それは合図だから。
「はぁい」
 少し小声で返事をしてドアを開ける。
 そこには満面の笑みの裕次お兄ちゃんが立っていた。
「こんばんは、奏ちゃん」
「遅くにどうしたの?とりあえず、どうぞ」
 口ではそんな風に言ってみたけれど、やっぱり会いにきてくれるのはすごく嬉しい。
「えへへ。ちょっとね。お邪魔しまぁす」
 裕次お兄ちゃんはいたずらっ子のような顔をして中に入った。
 と、その時。私はあることに気づく。
「何持ってるの?手紙?」
 裕次お兄ちゃんは大事そうに1通の手紙を持っていたのだ。丁寧に封がしてある薄いピンク色の可愛い封筒。
「うん?これ?これはね…まだ内緒」
 裕次お兄ちゃんはいたずらっぽく笑う。
 …まだってことは、後で教えてくれるのかな?
「もうすぐだね、奏ちゃんの誕生日!」
 その言葉を聞いて時計に目をやると、あと5分というところまで迫っていた。
「うん!なんだか、毎年のことなんだけれど…やっぱり楽しみだなぁ、誕生日。今年はどんな1日になるかなぁって」
「そっかそっか」
 裕次お兄ちゃんはにこにこ笑顔で私の頭を撫でる。
 前からやる行動なんだけれど、私は未だに慣れない。照れてすぐに顔が赤くなってしまう。
「俺ね、一番最初に奏ちゃんにおめでとうって言いたくて。それで来たんだ」
 裕次お兄ちゃんはパチッとウインクをしてみせる。
「嬉しい…」
 何気ない一言だけれど、それでも嬉しい。今年の誕生日はたくさんの家族と…そして、大好きな人と一緒に過ごせる。
「あ、奏ちゃん!もうすぐだよ!!」
 カウントダウンしよう!と裕次お兄ちゃんは言う。そして、私の手を取って時計の前に立った。
「よーし、30秒前…」
 裕次お兄ちゃんは時計に夢中。私はそんな裕次お兄ちゃんの横顔をそっと見つめた。
「「…10、9、8…」」
 一緒に数える。
「「…3、2、1!!」」
 そして、
「「おめでとう!!」」
 と2人で言った。向かい合い笑顔でお互いの顔を見つめながら。
「誕生日おめでとう、奏ちゃん!やった!一番最初に言えたよ!!」
 そう言うと嬉しそうに抱きついてきた。
「ありがとう!日付が変わる瞬間に裕次お兄ちゃんと一緒にいれてすごく嬉しかった」
 私も裕次お兄ちゃんの背中に手を回す。裕次お兄ちゃんのあったかなぬくもりが頬に伝わってきた。
「奏?」
「うん?」
 ぱっと裕次お兄ちゃんの方を見ると、ふわっと甘いキスをくれた。
「まずは、一番最初の誕生日プレゼント」
 えへへと笑ってもう一度、今度は頬にキスをする。
「一番最初の?」
 私は少し赤い顔をしながら聞く。
 裕次お兄ちゃんは待ってましたと言わんばかりに、満面の笑みで私にさっきの封筒を差し出した。
「そう!で、これは次のプレゼント!」
「お手紙…?」
 その手紙を不思議に思いながら受け取る。裕次お兄ちゃんはにこにこ笑ったままだ。
「これはね。招待状だよ」
「招待状?なんの?」
 バースデーパーティーのかなぁ?
「俺とのデートの」
「え?デート?」
 いつも手紙なんてないのに…むしろ、いつも唐突に「奏ちゃん!デートしよう!」って言ってくるのに…?
「そう。今日、バースデーパーティーがあるでしょう?」
「うん」
「それのせいでっていう言い方は悪いけれど…ほら、2人きりで過ごせないって言ってたでしょう?」
「うん…この間言ってたよね…」
 その言葉にちょっとしょぼんとなる。
 折角の初めての誕生日。だけれど、バースデーパーティーは私のために開いてくれるものだもんね…。
「その後のデートの招待状です。お姫様」
「そ、その後?」
 裕次お兄ちゃんは大きく頷く。
「そう。俺ね、色々考えたんだ。どうやったら2人きりで誕生日を過ごせるかなって。それで、思いついたの。バースデーパーティーの後!誕生日が終わる23時59分まで。ううん、その後も。俺と一緒に過ごしてくれませんか?」
 にこにこ笑顔のお兄ちゃん。きっと、この人は本当に色々と考えてくれたんだろう…。そう考えただけで、なんだかすごく嬉しい気持ちになった。
「…すごく嬉しい!」
 そして、今度は私から抱きついた。
 滅多にないその行動に裕次お兄ちゃんは少し顔を赤くしていた。
「それじゃあ、後でその手紙しっかり読んでおいてね?」
「うん、わかった!ありがとう!」
 裕次お兄ちゃんの言葉に満面の笑みで返す。
「奏」
「何?」
「…もう一度、キスして良い?」
「…うん」
 そして、今度は甘くて長いキスが降ってきたのだった。
 何度も、何度も…。


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