その日の夜。俺はダッシュで奏の部屋に向かった。
部屋の前に着くと、いつも通りノックする。
…コンコン…コンコン
それは大事な合図。中から小さくて可愛い返事が返ってくる。
そして、ゆっくりとドアが開くんだ。
「裕次お兄ちゃん」
にっこり笑って名前を呼ぶ。彼女の仕草1つ1つが本当に愛しく感じたりする。
自分の居場所を見つけたように。
「ごめんね、もう寝るところだった?」
「ううん、そんなことないよ。とりあえず…どうぞ」
そう言うと通れるだけのスペースを空け、部屋へと招き入れてくれた。
「うーん…」
ベッドの上に並んで座って2人で難しい顔をする。
話題はあの時上がった話題だ。
「そっかぁ。でも、それなら仕方ないよね…」
彼女は笑顔を向けて言ってくれたけれど、その顔はどこか寂しそうだった。
そんな彼女をぎゅっと抱きしめる。
「でも、俺、奏と2人きりでいたいなぁ」
「それは…私もそうだけれど」
でも、と彼女は言葉を続ける。その言葉を遮るように腕にきゅっと力を込めた。
「…」
だけれど、言葉は出なかった。奏は、自分だけのものではない。みんなだって奏のお祝いをしたいんだ。だからこそやるバースデーパーティー。
でも、やっぱり…独り占めしたい。
どうにか出来ないだろうかと2人で考えたけれど、勿論どうすることも出来ず。
その日はため息ばかりで終わってしまった。
でも、折角の誕生日。どうにかして2人きりで過ごしたい…!!
それから暫くの間、俺はどうにかして2人で過ごす方法を考える日々を送るのだった。
そして。
誕生日まであと2日と迫ったある日、ついに思いついたのだった。
よし…!これで行こう!
← | →