泣きたい夜は君を抱いて


 一体、いつぶりになるだろう。
 本当に久しぶりに…風邪を引いた。

「…頭…痛いな…」

 頬が、体が、妙に熱い。うっすら目を開けると天井がぼやけて見えた。
 体温を測ると39度近い。こんなに熱を出したのは、本当に何年ぶりのことなのか。そんなことを考えることすら辛いくらい頭が痛かった。

 そっと横に目をやると、サイドテーブルに食器が乗っているのが見える。きっと要くんがお粥と薬を持ってきてくれたんだろう。しかし、彼の姿はなかった。多分、自分が寝ていたからだと思う。
 火照った身体をゆっくりと起こす。それと同時に頭に痛みが走った。

「なかなかしんどい…」

 時計を見るとだいぶ遅い時間をさしていた。もう、みんなは部屋に戻った頃だろうか。もしかしたら、もう寝てるかも。

 …きっと、彼女も。

 なんとなく、気持ちが寂しかった。風邪を引くとなぜかそう思う。
 だが、そんなことはとても弟たちには言えない。彼らの中にそんな自分はきっといないはずだから。

 だんだん起きてるのが辛くなってきて、再びベッドに身体を埋める。
 ぼんやりと見上げた天井は、いつもよりもやけに遠く感じた。
 額に右手を乗せる。ベタついた肌が熱が高いことを嫌でも感じさせる。

「…着替えしとくか」

 しかし、言葉とは裏腹に身体はベッドから出ようとしない。
 身体を動かすことが気だるい。

「…あー…」

 額に当てた右手をそのまま目の上へ持っていく。
 ポツリポツリと呟く言葉が虚しく空気に溶けていった。


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