お兄ちゃんと弟


「〜♪」
「おや?随分上機嫌ですね。どうかしましたか?」

 鼻唄を歌いながら廊下を歩いていた裕次に、修一がにっこりと笑いながら声を掛ける。

「実はさっき瞬くんが一緒に出掛けたいって言ってくれたんだ!」

 ニコニコ笑顔で答える裕次に修一は驚いた顔をする。

「瞬が、ですか?それは珍しいですね」
「うん!それでもう俺、嬉しくって!じゃあ、支度してくるから」

 そう言うと裕次はスキップをしながら部屋へと戻っていった。
 そんな様子を微笑ましげに見ていた修一の隣に、すっと雅季が通る。
 すると…

「…裕次兄さんさ」
「え?」
「すごく瞬が好きでしょう?抱きついたりとか。うざいくらいに」
「え、えぇ…確かに」

 不意に話し始めた雅季の言葉に戸惑いながらも、修一はその話に耳を傾けた。

「僕もさっき、出掛けたいって言ってる現場見て珍しいなぁって思ったんだ」
「…ですよね」
「それで、後で瞬に聞いたんだ」
「瞬はなんと?」

『たまには…。可哀想だし。画材も終わっちゃったのあって欲しかったし』

「…」
「…」

 暫く沈黙が流れたのは言うまでもない。そして…

「…きっと裕次兄さん。買うよね」
「間違いないでしょうね」

 そんな二人の前を裕次と瞬が通っていく。

「あの…ありがとう。裕次兄ちゃん」

 少し恥ずかしそうに微笑む瞬に裕次の顔はゆるみっぱなし。

「全然!さぁ、行こう。瞬くん!あ、いってきまーす!」

 修一と雅季に気付いた裕次はぶんぶんと手を振っていた。

「…瞬、裕次兄さんの扱い上手くなった?」
「ちょっと…心配になってきました…」
「「まぁ…いいか」」


―Fin―


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