君が待ってる


 その日の放課後は…私にとって、ちょっと特別だったの。

「なぁ、今日一緒に帰ろ…」
「ごめん、雅弥くん!今日は無理!」

 スポーツバッグ片手に声を掛けてきた雅弥くん。
 彼の言葉を全て聞く前に私は早口で返事をした。

「それじゃあ、私急いでるから!また家でね!」
「お、おう…」

 そして、大急ぎで教室を後にする。

「な、なんだ…?」


「あ、ちょうど良かった。ねぇ…」
「雅季くん、ごめんね!今急いでるんだっ。また家で聞くね!」
「ちょ、ちょっと…」

 廊下ですれ違った雅季くんにも声を掛けられたけれど、私はまた早口で返事。
 申し訳なかったけれど…私にとっては大事な事だったから。
 そして、バタバタと廊下を走っていく。

「…家帰ってからじゃ遅いんだけど…まぁ、いいか」


「あ、駄目ですよ。廊下を走っては…」
「ごめんなさい!でも、今は見逃して!修一お兄ちゃん!」

 もうすぐ下駄箱という所で、今度は修一お兄ちゃんに会う。
 でも、私はまたすっとそれをかわしていった。

「あ、こら…」
「注意はお家で聞くね!ごめん!」

 そして、私は急いで靴をかえるとまた走って校門を目指した。

「全く…なんなんだ…?」


「あ!おーい…」
「裕次お兄ちゃん!ごめん、今日は一緒に帰れないの!」

 校門近く。大きく手を振る裕次お兄ちゃんの姿と声。
 でも、私は走ることをやめず、謝りの言葉を早口で告げる。

「え、えー!?」
「ごめんね!今日はどうしても無理なの!」

 そして、また校門を目指す私。

「そ、そんなぁ…」


 息を切らして、彼を探す。
 きっと、もういるはずだから。

 ―あ。いた!

「瞬くん!お待たせ!」

 その声に振り返る一人の少年。
 彼は私を見るなり、少しだけ頬を赤らめると満開の花のような笑顔をくれた。

「お姉ちゃん」
「お待たせ、遅くなっちゃったね」

 瞬くんは首をふるふると横に振ると、「大丈夫」と一言答えた。

「じゃあ、行こうか?今日も歩きでしょう?」
「うん。お姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫!さ、帰ろ?」

 そう言って笑顔で顔を合わせて。

 ほら、楽しい楽しい放課後の始まり。

「そうだ。お姉ちゃん、CDショップ寄っても良いかな?今日、新曲の発売日だから」
「そうだったね!うん、行こう行こう!」

 君が待ってる。
 私を待ってる。

 それがささやかな、
 私の幸せです。


―Fin―


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