誕生日当日。朝、いつもの調子で部屋のドアを開けると、そこには意外な人物が立っていた。

「本当だ、修兄の言った通りだなぁ。あ、おはよ」
「ま、雅弥様!?」

 思わずビクッとしてしまう。いきなり目の前に人がいたら…まぁ、誰でも驚くだろうけれど…。
 彼は悪びれることもなく、いつもの調子で立っていた。

「お、おはようございます。…しかし、どうなさいました?こんな朝早くに。それと、修一様の言った通りとは?」

 とりあえず、気持ちを落ち着かせて話す。彼は淡々とした口調で続けた。

「服。今日は休みのはずだろ?」
「え?」

 指摘され、パッと自分の服装を見る。
 それはいつもと同じ格好…バトラースーツ。

「…あ…」
「そんなわけで、はい。これ」
「はい?」

 と、何やら袋を渡される。中を見ると洋服が一式入っていた。

「雅弥様…この服は?」
「どうせ急に休みになったから、休みだってこと忘れてスーツ着てるだろうから、今日はこれ着てこいって伝えてくれって修兄から」
「は、はぁ…」

 何が何やらわからないまま事が進んでいく。

「じゃ、ほら。着替えて着替えて」

 そういうとあっという間に部屋へと押し戻されたのだった。

「な、なんなんだ…?」

 呆然と袋を抱えたまま立ちすくむ。はっとして、頭を振ると袋の中身を確認した。
 中に入っていたのは、白シャツ、細いベロア生地の黒ネクタイ、濃いグレーのベストに細身のスキニージーンズ。
 どれも雑誌に載っていそうな凝ったデザインのものばかりだった。

「一体、いつ揃えたんだろう」

 そんなことを呟きながらも、素直にそれに着替えるのだった…。

「あ、来た来た。要さーん!」

 着替えを済ませ、廊下を歩いていると今度は裕次様に呼び止められた。

「うんうん。似合ってるね。すごく良い!」

 彼は私の格好をぐるっと見ると満足そうにそう言った。

「え?」
「この格好ね、俺が揃えたんだよー」
「裕次様が?」
「うん。大学の友だちとかに相談もしたりしてねー。うん、似合ってる似合ってる」

 ぽかんとしながら彼の話を聞いていた。一体、今日は何が起こっているのだろう。

「あ、ありがとうございます、裕次様」
「どういたしましてー。あ、そうだ!」

 今度は一体何だ…?そう思っていると、彼はぱたぱたと廊下を走っていった。

「ゆ、裕次様!廊下を走られては…!」
「あははーごめんー!要さん!ちょっと待っててねー!」

 制止も聞かず、彼はあっという間に言ってしまった。
 もはや、何が起こっているのか考えるのも大変になってきていた。
 と、そこに

「要兄ちゃん、おはよう」
「瞬様。おはようございます」

 目をこすりながらやってきた彼と挨拶を交わす。一つ欠伸をすると、彼はこう言った。

「…今日は特別なんだよ?」
「え?特別…でございますか?」

 誕生日…のことなのだろうか。私の中でまた疑問が増える。
 と、その時。また廊下に騒がしい足音が響き渡る。

「要さん、お待たせ!こっちこっち!あ、瞬くんも来て!」
「裕次様!?今度は一体…!?」

 そう言う間に笑顔の彼に手を引かれ、転びそうになりながらも連れて行かれるのだった…。

 …今日は一体何が起きているんだ…!?


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