「お仕事、終わったばかりだった?」
「えぇ。って、こんな格好でごめん」
それを言うと、彼女の頬が少しだけ赤く染まった。
こういうところは、あの頃から何も変わっていない。
「え、えっとね。その…誕生日…」
「ん?」
そんな素振りを見せまいと、彼女は何か慌てて話を始めた。
「もうすぐ、誕生日終わっちゃう、から」
そう言って彼女が差し出したのは、綺麗にラッピングされたもの。
「誕生日、プレゼント…です」
「…ありがとう」
差し出してきたそれをそっと受け取り、笑顔で応える。
彼女は、続けた。
「どうしても、ね?この時間に言いたかったの」
「この時間に?」
時計の針はもうすぐ12をさそうとしている。
「うん」
「…どうして?」
もうすぐ、誕生日が終わる、この時間に。
「この日の、最初と最後に、私がいたかったから」
少し赤らんだ頬。
その少し上で細くなっている瞳。
少しだけ濡れた髪に、桜色の唇。
そして、そんな彼女から発せられた言葉。
あぁ。やっぱり。
こんな幸せな誕生日はない。
少しだけ、泣きそうになった。
「奏」
「なぁに?」
「ありがとう…」
「ふふっ。こちらこそ」
「そうだ」
「なんですか?」
「まだ、もらってないものがあるんだけど」
「うん?」
なぁ、まだ…誕生日だよな。
1分でも、あれば、それで充分。
「…奏」
「え、わ、私?」
「くれる、よね?」
その言葉に小さく頷いただけの彼女をそっと抱き締めた。
大丈夫、まだ誕生日。
「じゃあ、もう俺のもの…だよね」
「あのときから…要さんのもの…だよ?」
「ふふっ。そっか」
「…恥ずかしい、です」
「そう?」
「はい」
「じゃあ、俺のもの、だし…」
「何?」
パタン、
小さく音を立ててドアが閉まる。
構わないだろう?
君との時間が、
何よりも幸せな
プレゼントなのだから。
―Fin―
―Happy Birthday Kaname―
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