一時間、一分、一秒。
 いつもは気にしないその時間が、やたら今日は気になる。

 当たり前だ。

 今日は自分が生を受けた日。

 そして、もうひとつ…―


「要さん!」
「え、奏…?」

 満面の笑みと一緒に彼女は昨夜、自分の部屋にやってきた。
 小さなブーケを手に。

「お誕生日、おめでとうございます」

 少し赤らめたその顔をこちらに向けると、手に持っていた花束をこちらに寄越す。
 ほんの少しだけ驚きながらそれを手にとって礼を一つ。

「あ、ありがとう…」
「へへ。驚いた?」

 してやったというような顔で満足そうに彼女はそう言った。

 彼女は、奏は今一番大事な人。

 驚いたよ。
 そして、何より嬉しかったんだ。

「えぇ。でも」
「でも?」
「…ありがとう」

 ふっと零れた笑顔はきっと心から零れた笑顔だったに違いない。
 こんなに幸せに感じた誕生日は初めてかもしれないな。

「それでね、要さん」

 ふわりとした空気の中、彼女の声が響いた。

「なんですか?」
「今日の夜…えーっと、今じゃなくて2日の夜ね!この時間にはもうお部屋にいますか?」
「…え?」
「良いから良いから。答えて?」

 いたずらっ子のような、子どものようなそんな笑みを浮かべながら彼女は答えをせがんだ。

「え、えっと…そうだ…ね、余程急な仕事がない限り、は」
「りょーかいです。って、やっぱりお誕生日の日もお仕事、なんだね?」
「急な仕事が、ね。ごめん」
「ううん。私は、いいの」

 そう言う顔は少しだけ曇っていた。

「それで…それが、どうかしたのかな?」
「えーっと、それは…まだ内緒」

 何だったのか、ちょっと気になったけれど、愛しいこの人の小さな隠し事、だろうから。
 それ以上は聞かないことにした。

「じゃあ、今日は…おやすみなさい」
「ふふっ。じゃあ、おやすみ。それと」
「なんですか?」
「ありがとう、奏」

 触れるくらいのキスをその紅い頬に落として、その後に唇に接吻けた。


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