放課後。
今朝見た雲はやっぱり雨雲で。思った通り、それは雨をしっかりと降らせた。
一体どこが「良く晴れる一日」なのか。
おかげで傘を持ってくるのを忘れたよ。
置き傘があったと思ったのだけれど、勘違いだったのかそれもなくて。
盗まれたってことはないと思う。ここは西園寺学園だし、何より年季の入った傘だ。選ぶなら違う傘を選ぶだろう。
「仕方ない、迎えの車を呼ぶか」
そう電話をしたのだけれど、忙しいのか何なのか…一向に繋がらない電話。
元々歩いて帰るつもりだったしな…。
「どうしたもんか…。仕方ない、走って帰るか」
自分の彼女と友人の楽しそうなところを見て、誕生日には雨に濡れる。
とんだ災難だな、全く。
と、その時だ。
「いたー!」
「…え?」
「修一おにい…じゃなかった、先生!」
「奏さん?」
「慌てた」という言葉が一番似合うだろうその声の主は、奏だった。
帰るにしては遅い時間。日直ではなかったはずの彼女が…なぜここにいるのだろう。
「どうしたんですか?」
「さ、探してた」
「誰を?」
「誰って、修ちゃん」
その名前を呼んで慌てて口を塞ぐ彼女。
そんな姿を見て、可愛いと思った僕の心に…もう憂鬱という文字はきっとない。
なんて単純なんだろう。
「一緒に、帰ろう?」
「一緒に、ですか?」
「ダメ?」
「ダメなんてことは、ない」
「じゃあ、帰ろう」
「でも、今日傘が…」
ない、と言い掛けたその時だ。彼女は少し大きな包みを自分に渡すと
「あるよ、傘」
といつもの調子で告げるのだった。
「はい?」
「だから。はい、傘!」
「でも、これ…」
傘かどうか、わからない状態です。
だって、薄いグリーンのラッピング用紙に包まれているんですから。
「でも、傘だよ。ほら、あけてあけて!」
「え?あ、はい」
催促され言われるがままに包みをガサガサと開ける。
そこには、綺麗な濃い緑色の折り畳み傘。
「お誕生日おめでとう。修ちゃん」
少し控えめなその声が、自分には誰よりも大きい声に聞こえて。
思わず抱き締めそうになった。
でもすぐに思いとどまる。
だって、ここは…学校だから。
← | →