「修一兄さん!誕生日おめでとう!」
そう言って最初に声を掛けてきたのは裕次。金髪をふわふわとなびかせながら、いつもの笑顔で少し大きな花束を寄越す。
兄にこの花束もどうかと思うのだが(しかも朝から)それはそれで裕次らしいなと思った。
「…バカ兄貴、朝からそれはないだろ」
「えぇ!?なんで!?」
「しかも、男の人に花束って…」
「それも…結構大きいね?」
「え?ちょっと、雅季や瞬くんまで!」
それに続いてやってきたのは制服に身を包んだ雅弥、雅季、そして瞬。
みんな次々に祝いの言葉をくれ、彼らは学校から帰ってきたらプレゼントを渡すと言ってくれた。
と。
「あれ?奏さんは?まだ起きてこないんですか?」
「奏お姉ちゃんなら…もう学校に行ったよ?」
そう言うと返事をしたのは末っ子の瞬。少し首を傾げながら話を続ける。
「なんか、早く行ってやらなきゃいけないことがあるから!って慌てて出て行くの見たよ」
「そう、でしたか」
心にぽっかりと穴が空いたような、何とも言えない虚無感。
自分の誕生日にこんな気持ちを抱くなんて思いもしなかった。
どれだけ、彼女が自分の心を占めているか…こんなときに感じるなんて。
「では、僕も行って来ますね」
「いってらっしゃいませ、修一様」
そう言って出てきたのは、鞄を持った要くん。
「お誕生日、おめでとうございます。修一様」
いつもの笑顔で、どこか嬉しそうにその言葉を告げる彼に少しだけ疑問を抱きながら…そして、少しだけぎこちない手つきで鞄を受け取る。
と。
「…修一」
「え?」
こっそりと耳打ちしてきた彼の言葉は、執事ではなく…友人としてのものだった。
「今日は、良く晴れる一日だそうだよ?」
悪戯っぽい笑みを少しだけ浮かべると、彼はすっと自分から離れた。
「それでは、いってらっしゃいませ」
そして、執事の顔に戻ると深々と一礼するのだった。
その行動にさらに疑問を抱いたが、それ以上は何も聞けず。
結局そのまま家を出たのだが、
「どう考えても…良く晴れるとは思えない天気なんだけれど…」
自分の気持ちみたいにどんよりとした雲が空を覆っていたのだった。
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