もやもやした気持ちを抱えたまま、帰路に着いたのは何十分前だろうか。
どのくらい宛もなく歩いていたのかわからないけれど、これだけはわかっている。
結局、帰宅時間がいつもと同じになってしまったこと。
「おかえりなさいませ。修一様」
「あぁ…」
「お疲れでございますか?それともお体のご調子が…?」
「い、いや。大丈夫だよ。心配ありがとう、柊さん」
いつもならば迎えてくれるのは要くんなのだが、今日はもちろん柊さん。
それもそのはずだ。だって、彼は先程私服で見かけたばかりなのだから。
後から柊さんに聞いた話だと、彼は午後から休みを取っていたらしい。
誕生日前という日に。なかなか散々な想いをしている気がする。
早々に部屋へと入った自分の情けなさといったらない。
夕飯もそこそこに早々に帰ってきたのだから。
そんな様子を少し心配そうに見つめている奏の顔も、ちらりと見えた。
でも見えなかった振りをしたのは、なんでだろう。
別にやましいことなんて無いはずだ。
そう思えばそう思うほど、自分の心に何か言い聞かせているような気がして、すぐにやめた。
それから暫く…上手く抑えられない自分の心をどこかで誤魔化しながら、日々を過ごしていた。
その間、奏との会話はほぼ皆無。
挨拶や短い会話はするものの、以前よりはきっと減っているに違いない。
時折見せる不安そうな顔を見れば、どこか締め付けられる胸。
でも、上手く話せる自信もなかった。
聞いてしまえば楽になる。でも、聞けないのは何でだろう。
彼女と最後に交わした言葉は、そう。あれだ…
「修ちゃんは紺と濃い緑、どちらが好き?」
「…え?」
「え、あ、その…なんとなく!」
「そうですね…濃い…緑でしょうか」
「そっか!わかった、ありがとう!」
結局、何が言いたかったのかはわからなかったけれど…あの時の彼女の笑みはとても可愛らしい…愛しいものだったから、悪いことではないんだろう。
そして、その日は音もなく流れるように、当たり前のようにやってきた。
5月25日。誕生日だ。
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