「っだー!やっと見つけた!」

 はぁはぁと息を切らしながら、思わず大きな声が出る。
 その声に驚いたのか、奏はビクッと肩を震わせてからこちらを向いた。

「ま、雅弥くん!ビックリしたぁ…驚かさないでよ」
「なっ、俺はただ呼んだだけじゃねぇか!」

 って、俺は何をしにここに来たんだ。

 庭先は少しだけ薄暗く、離れたあの場所がいかに煌々と光っているかがよくわかる。
 4月も半ばだと言うのに、どこか肌寒い夜空の下で俺は真っすぐに奏を見つめた。

「ていうか、お前さ。その格好寒くないわけ?」
「え?あ、少しだけ…」
「ったく、何やってんだよ。こんなところで」

 素早くジャケットを脱いで肩に掛けてやる。
 こういう時、よく思うんだ。

 あぁ、女なんだなって。

 当たり前のことなんだけれど、すごい実感するんだ。

「何って。雅弥くんを探してたんだって」
「俺?だって、俺会場内にいたし」
「え!?だって、瞬くんが…テラスの方へ行ったって言うから」
「は?何言って…瞬はお前がテラスの方へ行ったって言ってたぞ?」
「…あれ?」
「な、なんだ?」

 どうやら、瞬にはお見通しだったらしい。
 お互いがお互いを探していたということが。

「ふふっ」
「なんだよ。全く、やられた!」
「まぁ、いいじゃない。おかげで会えたでしょう?」
「あぁ、そうだな」

 空を見上げると三日月がひっそりと佇んでいた。
 なんだっけ?あれ。そうだ、確か上弦の月。

「それで。お前、なんで俺を探してたんだよ?」
「え?あぁ!そうだった。さっき、話が途中になっちゃってたでしょう?それで」
「あ、あぁ…」

 思わず歯切れが悪くなる返事。
 確かに自分もその事で奏を探していたんだけれど…。
 いざ、そう言われると、なんて言ったらいいかわからない。

「何の話、だったの?」

 こちらを真っすぐに見てはにかむその姿は、なんとも反則的だった。
 サッカーで言ったらイエローカードくらいは取られても良いと思うぞ…。

「いや、その…お前に話があって」
「話?」
「なんつーか、その。いつもありがと、な?」
「え?」

 それは、俺が今までずっと思ってきたこと。
 いつかは伝えたいと、そう願っていたことだ。

「放課後の練習とかもそうだし、試合とかさ。結構…お前に支えられてるんだ」
「ふふっ。どうしたの?改まって。それに、私、大したことしてないよ?」
「んなこと、ねぇよ」

 当たり前だ。
 お前がいるだけで、お前がいないだけで、
 どれだけ変わるか。

 全然違うんだぞ?

「ありがとな」
「どういたしまして」

 なぁ?
 そのふわふわと笑うその笑顔を、独り占めしたいと言ったら。
 お前、なんて言う?

 思わず、引き寄せたその華奢な身体は
 強く抱き締めたら壊れてしまいそうで。

「ま、雅弥くん!?」
「…ったく、黙っとけよ」

 だから、迷わずキスをした。


「これからも…いや、これからは、俺だけの…隣に居ろよ…」


 想いの全部伝えるから。
 答えは「イエス」であって欲しい。

 そうしたら、他に何もいらない。

 それが一番最高の
 俺の誕生日プレゼント。


―Fin―


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