ベッドの上には、そのままになっているジャケット。
奏はそれと僕の姿を見て少しだけ目を丸くして言った。
「珍しいね、雅季くんがそういう格好してるの…」
「そう?っていうか、僕だってこういう時くらいあるから」
そんなことを言っているそばから、彼女は僕のジャケットを手に取ると近くにあったハンガーに掛ける。
主人の帰って来たそれは少し重たそうにしながらも、どこか満足そうな感じだ。
「それで、奏。どうしたの?」
「あ!そうだった。あのね、二つ。二つ用事があってきたの」
「…二つ?」
僕はてっきり…話の続きを聞きに来たのかと思ったよ。
「そう。まずは…はい、これ」
そう言うと彼女は小さな包みを僕へと差し出した。
早く、とせがむように手を上下に振りながら。
「…何?」
「何ってそりゃあもちろん!誕生日プレゼント」
「誕生日…プレゼント?」
奏はにっこりと笑う。
それ以上聞いたところで、何も言ってくれそうもなかったから仕方なくその包みを受け取った。
そこに入っていたのは、凝った細工の施されたブックマークだった。
「すごく悩んだんだけれど…これなら、使えるっていうか…使いやすいかなって」
その声と表情は少し満足気。
「良いセンス、してるね」
本当はもっとしっかり礼を告げたかったのだけれど…どうも上手く伝えられない。
こういう時、雅弥のようなストレートさが欲しいと思ってしまう自分が居る。
「でしょ?なんてね。受け取ってもらえるかな?」
「ありがたく、もらうよ。ありがとう」
「どういたしまして!改めて、誕生日おめでとう!」
そう言うと彼女はふわりと笑った。
そして、
「もう一つはね…」
彼女が話を始めようとした時、その話を遮った。
「さっきの話の続きが気になる?」
彼女の顔は少し驚いているような感じだった。
きっと図星だったんだろう。
「正解。聞けなかったから…」
「だろうと思った。でも、実はその必要性、なくなったんだ」
「え!?なんで!?」
その言葉に奏は驚き声を上げる。
当たり前だ。
だって、僕の話は
パーティーの後、二人で少し話がしたい。
それだったのだから。
「正確に言うと、手間が省けた」
「て、手間?」
「そう。君と…二人で話がしたかったんだ」
「え…」
戸惑ったその瞳を僕は逃さない。
それは、ちょっと意外に思ったからだろう?
「誕生日だったしね。けじめをつけたかったんだ」
「…けじめ?」
そう。それは、一つ年を重ねたからこそ。
今までの自分が重ねた分だけの想いを、
君に伝えたかったんだ。
「そう、けじめだよ。このままだと先を越されそうだったんだ」
「越される?え?誰に?ねぇ、話が見えな…」
言葉で伝えるよりも、
早いでしょう?
深く深くこの想いを刻み込んで。
シルシがついたら、言葉で告げるよ。
『僕は、君が好きなんだ』
誕生日プレゼントはこのキスと、
出来れば…
君が欲しい。
―Fin―
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