「着いた!」

 笑顔の奏ちゃんと共にやってきた所は…会場から少しだけ離れた場所。
 特に特別な場所というわけではない…と思うんだけれど。

「ここに…何があるの?」

 自分でもわかるくらい不思議そうな声を出して、繋がれた彼女の手をきゅっと強く握って見せたりする。

「ふふっ、それはまだ内緒だよ」

 いたずらっぽくウインクをしてみる彼女。
 その姿にどうしても弱い俺。

「それにしても…やっと二人きりになれた」

 少しだけ空を見上げて見せると彼女は白い息と共に言葉を紡ぐ。

「え、だ、だって…最近奏ちゃん忙しそうだったし…」

 まるで不平を言うように言ったその言葉に、彼女はいたずら顔で返してくる。

「確かに、そうだったかも」
「えぇ、何それ。俺、すっごく寂しかったのに!」
「あはは、ごめんね。私も…寂しかったんだよ?」

 おかしそうに笑った後、真っすぐ目を見て言われた言葉。
 その後、軽く触れるだけのキスをされると、彼女はまた空を見上げた。
 あまりに自然で、あまりに一瞬のことだったから。
 俺は何も出来ず…固まってしまった。

「どうかした?」
「えぇ!?な…なんでもない!」

 きっと、俺の顔…真っ赤だよね。

 会場から賑やかな声が聞こえてくる。
 あぁ、きっともうすぐ…なんだろう。

 そんなことを思っていたら、同じことを思っていたのか彼女は手にしていたブレスレットにも似た時計に目を落としていた。

「あ、もうすぐだよ!今、三分前だ!」
「えぇ!?もう!?」
「ほらほら、カウントダウンの用意して!」

 まるで急かされるようにそう言われると、一歩前へと背中を押された。

「え!?」
「ほらほら、カウントダウン。カウントダウン」
「えっと、あぁ、と、時計時計…。あぁ、もう二分前!?い、いや、一分前!」

 にこにこ笑顔の彼女と、焦りまくりの俺。

 あぁ、俺…今ちょっと幸せ感じた。

 よく考えたら…奏ちゃんと二人きりで今年を終われるんだ。

 そして…

「裕次?」
「何?」
「一緒に、年越しだね」
「…うん」

 一緒に新年を迎えて、一緒に誕生日を迎えられる。

 大きく響く、カウントダウンの掛け声。
 今年が終わり、来年がやってくる。

「10…!」
「…9?」
「8」
「…7!」

 楽しくなってきた。

「4!」
「3ー!」

 だって、君と一緒だもん。

「1!」

「「おめでとう!」」

 二人顔を見合わせて言えた言葉。
 二つの意味を持ったその言葉。
 と…

「え、わ、わぁ!」

 目の前が急に明るくなったかと思うと、大きな音が響いた。
 隣に居る奏ちゃんはすごく嬉しそうな顔。

「は、花火…?」

 呆然と見上げる夜空。そこに咲く大輪の花…。

「成功ー!」

 彼女は両手を目一杯上げるとそのままガッツポーズ。

「え?えぇ!?」

 何がなんだかわからない内に…後ろから声。

「おぉ、派手だなぁ」
「冬の花火も…綺麗なものですね」
「綺麗に打ちあがって安心しております」
「結構大変だったからね、準備」
「でも…裕次兄ちゃん、かなり驚いてるよ?」
「成功した…ってことですよ」

 そこには、みんなが勢揃いしていた。

「な、何…?」

 呆然と立ち尽くしているその姿は実に間抜けだっただろう。
 そんな俺の肩を叩く小さな手。

「裕次お兄ちゃん、誕生日おめでとう!」

 花火に負けないくらいの大輪の笑顔だった。

 どうやら…みんな俺のためにサプライズを企画していてくれたらしい。
 0時ちょうどに花火を上げること。プレゼントを用意していたことなど…。
 ちなみに、プレゼントは瞬くん作の奏ちゃんの絵だった。
 理由は瞬くん曰く、『一番喜びそうだったから』だそう。

「ねぇ、裕次?」

 みんなが思い思いに談笑している中、そっと袖を掴まれ声を掛けられる。

「うん?」
「どうだった…?」

 ゆっくり小さな笑みを作ると彼女は少しだけ嬉しそうに聞いてきた。

「もちろん、最高!」
「そっか。良かった」

 そして、今度は満面の笑み。

「ここに連れて来てくれた奏ちゃんの手、まるで魔法使いみたいだった」
「え?なんで?」
「だって、こんな素敵な場所に瞬時につれてきてくれちゃったんだよ?」
「あはは、大袈裟だよ」
「そんなことないって!」

 自然と笑みがこぼれてくる。
 ここ数日のことが、まるで嘘みたい。

「あ…」
「何?どうしたの?」
「俺、大事なプレゼントもらってない!」
「え!?何?何!?」

 少し焦ってる顔の奏ちゃん。
 俺は思い切り笑った後…彼女を抱きかかえた。

「きゃっ!ゆ、裕…!?」

 急な行動に戸惑うばかりの彼女をそのままに、俺は大声でみんなに言った。

「ねぇ!みんな!」

 一斉に振り返るみんなに笑顔で告げた。

「俺さ、一番欲しいプレゼントもらってなかったから…今、もらって行くね!」

 そう言うと、くるっと回れ右をして…走り出す。

「え!?ちょっと、えー!?」

 後ろからは何か言う声。
 腕の中でも驚きの声。

 俺の声は、笑い声。


 ねぇ、今度は俺の手から。
 幸せという名の魔法を自分に掛けるよ。

 自分でも言っちゃう。
 HAPPY BIRTHDAY!俺!

 
「幸せだー!」


―Fin―


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