「瞬くーん!」
廊下を歩いていると、前から花束を持った瞬くんの姿が目に入ってきた。
俺は急いで駆け寄ると、そのまま瞬くんに抱きつこうとする…が。
「ちょ、ちょっと待って!裕次兄ちゃん!」
寸前でストップ。
え?何で?
「そのまま抱きつかれたら…折角の花束が潰れちゃうよ?」
くすくすと笑いながらそう言う瞬くん。
「あ、そっか…」
さらに肩を落とした俺。
「どうしたの?裕次兄ちゃん。元気…ないね?」
「え、あ、うん…ちょっとだけ、ね?」
行き場を失った手が宙を少しだけ舞い、そのまますとんと下へ落ちる。
「大丈夫?」
「ちょっと、ダメかも」
「ふふっ、裕次兄ちゃんらしくないよ?」
「そうかな?」
「うん。でも、きっと…すぐに元気になるよ」
そう意味深な言葉を告げると、瞬くんは「絵を描くから」と言って足早に部屋へと入っていった。
「うぅ…俺の気持ちの行き場所…」
行き場をなくした手と気持ち。
今、この場に奏ちゃんが居たら…ぎゅっと抱き締めて離しはしないのに。
でも、現実…いるわけもなく。
まるで誰もいなくなってしまったかのように、廊下はがらんとしていた。
「なんで…俺こんなに寂しいの?」
そう言って、とぼとぼと自室に戻った。
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「ふぅ…危なかったぁ」
「あ、おかえりなさい。瞬くん?どうしたの?」
「今ね、廊下で裕次兄ちゃんに会ったんだ」
「な、なるほど…」
「あぁ、そうだった。お姉ちゃん…はい、これ…持ってくれる?」
「うん。どう持ったら良いかな?こう?」
「えっとねぇ…」
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ベッドに寝転んでも、疲れているはずの身体は眠ろうとしない。
まぁ、そんな時間でもないからかな…。
でも、こういう時は眠りに落ちたいのに。
なんで?
奏ちゃんだけじゃなくて…瞬くんまで?
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