「瞬くーん!」

 廊下を歩いていると、前から花束を持った瞬くんの姿が目に入ってきた。
 俺は急いで駆け寄ると、そのまま瞬くんに抱きつこうとする…が。

「ちょ、ちょっと待って!裕次兄ちゃん!」

 寸前でストップ。
 え?何で?

「そのまま抱きつかれたら…折角の花束が潰れちゃうよ?」

 くすくすと笑いながらそう言う瞬くん。

「あ、そっか…」

 さらに肩を落とした俺。

「どうしたの?裕次兄ちゃん。元気…ないね?」
「え、あ、うん…ちょっとだけ、ね?」

 行き場を失った手が宙を少しだけ舞い、そのまますとんと下へ落ちる。

「大丈夫?」
「ちょっと、ダメかも」
「ふふっ、裕次兄ちゃんらしくないよ?」
「そうかな?」
「うん。でも、きっと…すぐに元気になるよ」

 そう意味深な言葉を告げると、瞬くんは「絵を描くから」と言って足早に部屋へと入っていった。

「うぅ…俺の気持ちの行き場所…」

 行き場をなくした手と気持ち。
 今、この場に奏ちゃんが居たら…ぎゅっと抱き締めて離しはしないのに。
 でも、現実…いるわけもなく。
 まるで誰もいなくなってしまったかのように、廊下はがらんとしていた。

「なんで…俺こんなに寂しいの?」

 そう言って、とぼとぼと自室に戻った。

+*+*+*+*+*+*+*+

「ふぅ…危なかったぁ」
「あ、おかえりなさい。瞬くん?どうしたの?」
「今ね、廊下で裕次兄ちゃんに会ったんだ」
「な、なるほど…」
「あぁ、そうだった。お姉ちゃん…はい、これ…持ってくれる?」
「うん。どう持ったら良いかな?こう?」
「えっとねぇ…」

+*+*+*+*+*+*+*+

 ベッドに寝転んでも、疲れているはずの身体は眠ろうとしない。
 まぁ、そんな時間でもないからかな…。
 でも、こういう時は眠りに落ちたいのに。

 なんで?
 奏ちゃんだけじゃなくて…瞬くんまで?


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