「あれ?瞬くん?」

 向かう途中の廊下で、僕はやっと一番会いたい人と出会うことができた。

「どうしたの?」

 笑顔で聞いてきた奏ちゃんの手を、僕はきゅっと握った。

「ねぇ?」
「うん?」
「…今から、ちょっとだけ抜け出そう?」
「え!?し、瞬くん!?」

 返事を待たないまま、ぐっとその手を掴んで走り出した。


 辿り着いた先は、会場から少し離れた庭先。
 夜風が少しだけひんやりしていたその場所は、会場の雑音も小さく聞こえる。
 僕は着ていたジャケットを奏ちゃんの肩にかけると、またその温かな掌を握った。

「やっと…ゆっくり会えた」

 自然にこぼれてしまう笑みに恥ずかしさを覚えながら、ポツリと呟く。

「そういえば…ごめんね。最近ゆっくり会えてなかったよね」

 申し訳なさそうな表情の奏ちゃんに、僕はふるふると首を横に振る。

「いいよ。今、こうしていられるから」

 それは確かに本心だった。

「そういえば。要兄ちゃんが忘れ物をしたって言ってたけど…」

 小首を傾げながら質問する僕に、奏ちゃんはそうそう!と言いながら、手に持っていた少しだけ小さな紙袋を僕に渡す。

「はい、誕生日プレゼント。様子を見て渡そうと思ってたんだけど、これを持っていくの忘れちゃって」

 恥ずかしそうなその笑顔に、たまらず僕も顔を赤くする。

「ありがとう、奏ちゃん」


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