「奏お姉ちゃ…」

 廊下。少し前を歩いていた奏ちゃんを見つけて、声を掛けようとしたときだ。

「瞬くーん!」
「え?…わぁっ!?」

 突然後ろから抱きつかれる。
 それは裕次兄ちゃんからの熱烈なハグで、僕の出した声に驚いた奏ちゃんは、ばっとこっちを向くとすぐにおかしそうに笑っていた。

「裕次兄ちゃん?ど、どうしたの?」
「いや、いつも瞬くんは可愛いなぁと思って」

 そう言いながら、僕の髪に頬擦りをする。
 そんな様子を楽しそうに見ていた奏ちゃんがこちらに近づいてくる。

「裕次お兄ちゃんって、瞬くんのこと大好きだよね」
「もちろん!あ、でも奏ちゃんのことだって大好きだよ」

 さらっと言ってウィンクする裕次兄ちゃん。
 あまりに自然で少し妬ける。

「裕次兄ちゃん…何か用事があったんじゃないの?」

 少しだけ拗ねたような声になってしまったかな…?

「あ!そうだった」
「すごい。瞬くん、わかるんだねー」
「裕次兄ちゃんは大体何かあるとこうやって抱きついてくるから」

 なるほどと感心する奏ちゃんの横で、裕次兄ちゃんは目を輝かせていた。

「あのさ。瞬くん、もうすぐ誕生日でしょ?」

 にっこり笑顔の裕次兄ちゃん。
 僕はその笑顔に少しだけ嫌な予感を感じた。

「当日は誕生日パーティーするからね!学校もお休みだし。楽しみにしてて」

 …やっぱり…。

 裕次兄ちゃんの隣で笑顔の奏ちゃん。
 僕も気持ちはすごく嬉しかったから。笑顔で裕次兄ちゃんに返事をしたけれど。

 本当はね?
 奏ちゃんと過ごしたいって思ってたんだ。

『奏ちゃん、僕の誕生日に…奏ちゃんの時間くれるかな?』

 さっき言おうとした言葉。
 音を持たないその言葉は、ため息に変わって笑い声に掻き消されていった。


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