「あ、要さん。ちょっとここで待っててね」

 玄関前に着くと、奏が急に電話を取り出した。
 不思議に思ったがひとまず素直に言うことを聞くと、彼女は誰かと話をし始める。

「…うん。じゃあ、もう大丈夫だね?わかった。はーい」

 嬉しそうに電話を切ると彼女は満面の笑みでこちらを見た。

「奏?」
「それじゃあ、行きましょうか!」
「ど、どこへ…?あ!」

 そして、また彼女に手を引かれ家の中へと入っていった。

 着いた場所は食堂だった。

「さ、どうぞ」

 彼女はぱっと手を離すと、中へ入るように促した。
 訳も解らず、言う通りにドアに手を掛け中に入る。
 …と。

 パーン!!

 ドアを開けた瞬間、響き渡ったクラッカーの音。
 …クラッカー?
 色とりどりの細い紙テープが頭の上に降ってきた。

「あはは、すごい驚いた顔しているね!」

 面白おかしく裕次様が目の前で笑っている。というか、ご兄弟全員が目の前でこちらにクラッカーを向けていたのだ。

「…」

 思わず呆然と見渡してしまった。
 とその時、隣からひょこっと彼女が出てきた。そして、こちらを向いてにっこり笑う。

「御堂さん!お誕生日おめでとう!」

 そう言うと、手をパチパチと叩き始めた。

「折角の要くんの誕生日だったので。いつもお世話になっているから何かしたいなと思いましてね。内緒でパーティーを開くことにしたんですよ。ちょっと小さいかもしれませんけれどね」

 次々と掛けられる言葉に徐々に頭の中が整理されていく。

「それで、準備をしている間に奏ちゃんと出掛けてもらってたってわけ」
「結構大変だったんだぜー?こそこそやるの」
「要さんは勘がいいからね。バレるんじゃないかってひやひやしたよ」
「要兄ちゃん、おめでと」

 そうか。自分のために…。

 そう考えたら、なんだか涙が出て来そうになった。
 あまりに嬉しくて。あまりに幸せで…。

「さ!パーティー始めましょ?」

 そして、自分の生きてきた中で一番賑やかなんじゃないかと思うくらいの誕生日パーティーが始まった。
 テーブルの上には色々な料理と自分の名前の書かれたケーキ。
 それぞれがそれぞれ楽しそうに話し、その時を過ごしていった。

「要さん!今日くらい良いでしょ!?一緒にお酒飲もうよー!」
「あ!ほどほどにしろよ!?バカ兄貴が飲むと後が大変なんだからな!」
「え?裕次お兄ちゃんが飲むとどうなるの?」
「そうか、奏はまだ知らなかったのか。とりあえず…近づかないほうが良いと思う」
「うん、ぼ、僕もそう思うよ」
「そういえば、瞬はこの前被害にあっていたよね」
「まあまあ、一緒に僕も飲みますから」
「修兄はなんだかんだでザルなんだよなー。あぁ、奏!気をつけろよ!」

 そんな兄弟のやり取りがなんだかすごく微笑ましく思えた。
 そして、その中に入れる自分はなんて幸せなんだろうとも。

 この後、案の定陽気な酔っ払いが1人出た。その収拾をつけるのに一苦労だったのは言うまでもない。
 なんせ、彼は…酔うとキス魔になるのだから。
 その傍らには淡々と酒を飲んでいる彼。ザルだと言われていたが、きっと少し酔っているのだろう。いつもなら、この事態をいち早く止めているだろうから。
 とりあえず、急いでキス魔を捕らえることにした。
 以前も被害にあっている瞬様もそうだが…今回は奏がいる。
 若干ヒヤヒヤしながら、雅弥様と一緒に止めるとあっという間に裕次様は眠りに落ちた。

「やれやれ。これだからバカ兄貴は…」
「まあ、いつものことだけれどね」
「た、確かに雅季くんの言ってた意味がわかったよ…」
「でしょう?」

 そう言ってため息をつきながら、ぐうぐう寝ている彼の肩を持つ。

「裕次様は私がお部屋へお運び致しましょう」

 そう言ったが、「折角の誕生日なんだから楽しんでよ」と言われ制止されてしまった。

 そんな自分も少しだけ酔いが回ってきた気がした。
 多分、2人(どちらかというと1人)に思い切り薦められたせいだろう…。

 …少し、夜風に当たってこよう。


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