街中の喧騒
―…一体、隣にいるその方は誰なのですか?
用事を済まして、1人車を走らせ帰路に着いている途中。ちょうどそれは、学校の下校時間と重なる時間だった。
信号待ちをしていて、たまたま視線をやった先に見つけてしまった2人の影。
1人は知らない男子学生。そして、もう1人は…愛しい人の姿だった。
それは街中を楽しそうに歩いている姿。
信号が変わりパッと視線を戻すが、さっき見た光景が焼きついて離れない。
街中の喧騒の中、あの光景だけがやけにリアルではっきり映った。
ふと、記憶を手繰り寄せる。
それは、今朝の出来事。
『申し訳ございません、奏お嬢様。今日は急な用事が入ってしまったため、お迎えに上がれないのです』
『そうなんですか。あ、大丈夫ですよ!それに、今日はちょっと寄りたい所があったからお迎えは断ろうと思っていたの。だから、気にしなくて良いですよ?』
『そうでしたか。わかりました。それでは、お気をつけていってらっしゃいませ』
『うん!行って来ます!』
寄りたい所があると彼女は言っていた。その時、1人で行くとは言っていなかったわけだし、もしかしたらたまたま会っただけかもしれない。
でも…―。
その、隣に居るのはどなたですか?
貴方とはどういう関係ですか?
自分の中を支配していく黒い感情。
疑いようも間違いようもない嫌な感情。
今、彼女と共に居れない自分。
今、彼女と一緒に楽しそうに笑いあっている彼。
今、自分の存在に気づいていない彼女。
これは、嫉妬だ。
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