秘密の図書館
いつもは教室で待っているはずなんだけれど、確か、今日は図書室に行くと言っていたな。
生徒会の仕事をしながら、ふと彼女のことを思った。今までになかった感情。今までになかった考え。
頭の中に奏というスペースがいつの間にか出来ていた。
それは悪いものではなくて、むしろ…居心地がいいもの。
「雅季、どう?もう終わりそう?」
ふと、声を掛けられる。同じ生徒会の巧だ。早く部活に行きたいからか、その声には少し落ち着きがない。
「もう大丈夫。部活行くなら、もう行っても良いよ」
「本当に?いや、ちょっと図書室に行く用もあったからさ。早く終わりたかったんだ」
いつもの屈託のない笑みを浮かべながら巧は言う。ある言葉に引っ掛かりながらも、冷静に返事を返した。
「…正直だな。そんなに嫌な仕事だったの?」
「え?やだなー、そういうわけじゃないよ」
机の上を片しながら続ける。巧は笑顔のままだ。ちょっと気になる笑顔。早く部活に行きたいというよりは…ちょっと違った感じがする。
そんな様子の巧に、僕は少し探りを入れるような質問をした。なぜなら、彼は部活前に『図書室に行く』と言っていたから。
…僕の考えすぎかもしれないけれど。
「図書室には何を借りに行くの?それとも返却?」
視線を机に落としたまま質問をする。巧も支度をしながら答えた。
「ん、どっちも違う」
「図書室に行くのに?」
「うーん」
巧は支度をしていた手を止めて、少し上を向いて考えるような姿勢をとる。
そして、こう言った。
「奏ちゃんにさ、ちょっと用があって」
僕の手も止まる。なんとなく引っ掛かったことが的中したから。
「…奏に?」
あくまでいつものトーンで返事をする。動揺がバレないように手も動かした。
「そう。ここに来る前に会ってね。図書室に行くって行ってたから。まだいるだろうし」
「そ…」
本当は頭の中は巧に聞きたいことだらけだった。一体何の用なのか、会った時はどんな話をしたのか…。でも、言葉は出ない。
違う、出せない。
だって、あくまでも…彼の中では僕と奏は兄妹だから。
「まあ、そういうわけだから。俺、もう行くね」
そういうと巧は鞄を手に持ち、部屋を出て行った。
あぁと一言だけ告げると、部屋には少しだけ濁った沈黙。
頭の中が冷静じゃない。
気になって仕方がないから…。
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