「裕次お兄ちゃん!お願い!」
「へ?」

 夕食後、不意に後ろから声を掛けられた。
 というよりも…お願いをされた形。
 目の前には可愛い妹、奏が両手を顔の前で合わせて…困った顔をしている。

「どうしたの?奏ちゃん」
「裕次お兄ちゃんに…相談があるの…」

 その顔はどこか赤みを帯びていて。なんとなく、嫌な予感がよぎったんだ。胸の内をざわざわと嫌な気持ちが駆け巡っていく。

「う、うん…良いけれど」

 でも、彼女の必死のお願いを断ることも出来ず…結局縦に首を振ってしまう自分。

「本当に!ありがとう!」

 一気に顔がほころぶ彼女を見て、ざわつく心のどこか隅できゅっと締め付けられるような淡い気持ちが顔を覗かす。

 あぁ、そうだった。俺は彼女のこの笑顔が好きだった。

 拭いきれない嫌な予感につい忘れてしまいそうになってしまう、自分の中では当たり前のこと。

 そう。俺は奏のことが好き。
 …婚約者がいる身だけれど…。


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