そして、次の日の夜。

 ピークの時間は夜中の2時。その時間に間に合うように、僕はこっそりと自分の部屋を抜け出した。
 忍び足で奏ちゃんの部屋へと向かう。だって、ここで見つかったりなんかして止められたりしたら…折角の約束が台無しになってしまう。

 …コンコン

 少しだけ小さめなノックをする。…奏ちゃん、起きてるかな?

 …コンコン

 もう一度ノックをすると、そーっとドアが開いた。

「お待たせ」

 そこには満面の笑みの彼女が立っていた。

「じゃあ、行こう?」
「うん!」
「バレないように…」
「忍び足。で?」

 悪戯っぽく笑う彼女。その言葉と笑顔に呼応するように笑顔で頷いた。


 向かった先は乗馬場。ここは遮るものが何もない上、辺りは明かりが少なく暗い。
 だから、天体観測をするには打ってつけの場所だった。

「わぁ、すごく良く見える!こんなに綺麗に見えるんだね!」
「うん。まあ、寝転がれないのがちょっと残念なところだけれど」

 運良く雲があまりない綺麗な星空が広がっていた。満ち欠けの関係で月は少しだけ出ていたけれど、そこまで気になる明るさではない。
 ペルセウス座も綺麗に見えている。近くには牡牛座、カシオペア座、くじら座…。色々な星が輝いていた。

 もうすぐピークの時間。

「あ!見えた!流れ星!」

 夜空を見上げ、興奮気味な彼女。

「ピークの時間はもうすぐだけれど、それでも結構流れているから」
「そうなんだ!楽しみ!すごく綺麗だね、瞬くん」

 手を伸ばせば届きそうな星空を見上げる。まるで降ってきそうな流星。
 いつもは1人で見ていた星空も、2人で見るとまた違った雰囲気に思えた。
 ちらっと彼女を見ると、ずっと上を向いたまま目を輝かせていた。

「うん?どうしたの?」

 そんな視線に気づいたのか、ぱっとこっちを見た彼女と視線が交じり合う。

「奏ちゃんと一緒に見れて良かったなって思って」
「本当に?良かった。私も見れて嬉しいよ」
「ねえ?」
「なぁに?」
「…奏ちゃんはどんなお願い事する?」

 願い事?と言いながら、彼女は首を傾げる。そしてすぐに、あ!と言うと今度は思案顔。くるくる変わるその表情がなんだかおかしかった。

「どうしよう。悩んじゃうなぁ」
「でも、たくさん流れるよ。たくさんお願いできるかもね」

 そんなことを言っていると、また1つ2つと流れる星々。
 もうすぐ午前2時だ。

「瞬くんは?」
「僕?」
「どんなお願い事する?」

 彼女はそう僕に聞くと、また空を見上げた。

「あ!すごい流れてるよ!」

 気づけば、ピークの時間になっていた。
 今日は条件が良いから、きっといくつも見れるはず。

『どんなお願い事する?』

 僕の願い事は決まっているよ。
 隣にいる君と
 いつまでも、一緒に居ること。

「奏ちゃん」
「うん?何?」
「1つ、僕のお願い事、叶えてくれる?」
「え?」

 振り向いた彼女に不意打ちキス。

「…ありがとう」
「し、瞬くん!?」

 僕は何も無かったかのような素振り。
 彼女は暫く赤い顔をして僕の横顔を見つめていた。

 ねえ、君は何をお願いする?


―Fin―

→あとがき


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