一歩ずつ、部屋に近づいていく。表情は変えず、いつも通りに。余計なことは考えずに。
 部屋に着くと、一つ深呼吸をしてから軽くノックをした。
 …コンコン。
 無機質な音が廊下に響く。

「は…い」

 少し小さな声が部屋から聞こえた。何か様子がおかしい。とりあえず、中へ入ることにした。

「御堂です。失礼します―…!お嬢様!?どうされました?」

 中に入ると、そこには俯いて少しだけ涙を流している奏様が居た。左手は目元に。

「…に…って…」

 小さな声で呟きながら顔を上げる。目が赤くなっていた。
 色々なことを考えてから来たせいか、変なことが頭を過ぎる。
 少し鼓動が早くなった心臓。それを悟られないようにもう一度聞く。

「どうなさったんですか…?奏様?」

「目に…ゴミ入っちゃって…結構痛いんです…。涙出てきた…」

 え?
 ゴミ?

 それを聞いて少し脱力した自分がいた。
 正直…違うことを想像していたから。

「とりあえず、こすると余計に出てきませんから。少し見せてもらってもよろしいですか?」

 同じ目線に合わせて少し赤くなった目を覗き込むように見つめた。
 今の自分には少々刺激の強い状況だが…そんなことは言っていられない。

「あぁ、睫毛が入ってしまっていますね。それで痛むのでしょう」

 そう言って、入った睫毛を丁寧に取る。痛くないように。優しく。

「あ、痛くなくなった…」
「奏様の睫毛は長いですからね。目をこすった拍子か何かで入ってしまわれたのでしょう」

 すっと立ち上がって言う。もう、あの状況は限界…。

「ありがとう、御堂さん」

 少し涙目のお礼の笑顔。この笑顔に何度やられたか…。涙目なんて、反則に近い。

「い、いえ。そういえば。以前お嬢様が頼まれた荷物が届いたので、持ってきたのでした」
「あ、来たんだ!わざわざありがとうございました」
「いいえ。それでは、失礼致します」
「はい」

 ぱたんとドアを閉めて一つため息をついた。

「全く…ダメだな、私も」

 彼女の一言、一挙一動にこんなにも反応する自分がいる。
 というか…全てに…。

 もう一つため息をついて歩き始めた。

 この状況は、まだまだ当分続きそうだ。


―Fin―


→あとがき


|

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -