グラウンドから聞こえる部活中の生徒の声。教室から聞こえるお喋り声。廊下ですれ違って挨拶された時の声。
前はこんなに気になったことはない声たち。でも、今は少しだけ違う。
どこかでに彼女の声が聞こえるんじゃないかって思ってしまう。そして、どこか彼女の姿を探している自分。
だけれど、見つけたくないとも思ってしまっている自分。
「教師と生徒」という壁を目の前で見つめてしまう気がするから。
…自分を抑えるのも結構大変だな。
こんなに余裕がないことなんて、今まであったかな。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると…一番聞きたかった、でもちょっと複雑な気持ちになる声が教室から聞こえてきた。
奏だ。
でも、誰と?
少しだけ開いたドアから見えた姿。相手の姿はちょうどドアに隠れて見えない。嫌だなと思いながらも、盗み見るようにそのやり取りを見てしまう自分。
話ははっきりとは聞こえなかったけれど、楽しそうだということはわかった。
だって、奏は嬉しそうに笑っていたから。
学校では、あんな笑顔で話しているのか。
彼女の新しい一面を見たような気がした。知らない彼女が知れて嬉しい自分。
でも、それと同時にそんな彼女をいつも見れない自分にも気づいてしまう。
厄介な気持ちだ。
そんな気持ちを振り切るようにぎゅっと一度目を瞑ってから踵を返した。これ以上見ているのも、と思ったから。
でも。次の瞬間、動きを止めた。
奏の声ばかり聞いていたからか、相手の声をしっかり聞いていなかった。
…相手は、男子生徒?
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