その憂鬱が一番酷いのは学校だ。

 学校では「教師と生徒」。「兄と妹」ってだけでも溜め息が出るのに…。「教師と生徒」という立場なら尚更だ。
 まして、自分は奏のクラスの担任ではない。学校で見掛ける時間は結構少ないのだ。
 そんなこんなで…「恋人」という立場が占める割合が少ないことに、どうしても不満を感じてしまう自分。

 なんて身勝手な願い事。

 少し前までは想いが通じ合っただけで嬉しかったのに。

「ふぅ…」

 放課後。廊下を歩いていて、ふっと出た溜め息。
 今の自分は、どういう風に見えているんだろうか。
 結構、情けない姿なんだろう。

「おーい、シュウイチ先生?」

 ふっと声を掛けられた。いや、正確に言うと…声を掛けられていた。
 後ろを振り返ると、そこにいたのは雅弥だった。

「あぁ、すいません、気づかなくて…。どうしました?」

 ふっと笑って答える。いつもの笑顔…上手く作れているだろうか。

「や、別に用はないけれどさ。なんか疲れてるみたいだったから。修兄、大丈夫?」

 スポーツバックを片手に少し心配そうに聞いてくる。
 そんな彼に心配かけまいといつもの調子で返す。

「大丈夫ですよ。あぁ、もしかしたら…僕の授業中に気持ち良さそーうに眠っている生徒がいるからかもしれませんねぇ」
「え!?あ、いや、あー、そのー…」

 一気に目が泳ぐ雅弥。すぐに自分のことだとわかったのだろう。
 まあ、疲れてるだろうと思って…敢えて無理に起こしたりもしていないんだけれどね。

「いやぁ、今度の小テストが楽しみですねー」
「えーっと、お、俺、もう部活行かねーと!またな!修兄!」

 そう言うと目をあわさずに雅弥は廊下を走っていった。

「廊下は走っちゃだめですよー」

 その声は虚しく響いただけだった。
 彼なりに自分のことを心配してくれているんだろう。

 …本当の理由なんてとても言えないな。


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