「その…えーっと…た、誕生日…のですね…」
彼女はぼそぼそと小さな声で喋り出す。
「はっきり、言って下さい」
ぐっと彼女の手を掴んで目を見つめる。
彼女は降参したというような顔をして、情けなさそうにこう言った。
「誕生日」
「え?」
「もうすぐ要さんの誕生日でしょう?」
「誕生日?」
思いも寄らない言葉が返ってきて、ぽかんとした顔で彼女を見つめた。
そういえば。もうすぐ自分の誕生日だった…。
「誕生日プレゼント…何か渡したいなぁって思ったは良いんだけれど…なっかなか良いの見つからなくて。それで、やっと見つけたは良いけれど、売ってる場所…わからなくて」
視線を逸らし、赤い顔をして彼女は話し出す。
どうやら、自分の誕生日プレゼントを探すために街へと行き、そのショップの場所がわからなかったため彼に教えてもらっていたらしい。
そんな彼女の話を聞いて、呆然としてしまった。
自分のため、だったのか。
「あぁあ。内緒で準備して渡すつもりだったのに。バレちゃった」
彼女はペロッと舌を出しながらばつが悪そうに笑う。
そんな彼女がすごく愛しく感じて、またぎゅっと抱きしめた。
「きゃっ」
「奏、ありがとう」
「…ううん。むしろ、ごめんね?」
「いいんだよ。俺が勝手に勘違いしてただけだから」
それ以上、彼女は何も言わなかった。代わりに背中に腕が回されてそっとその腕に包まれる。
「…でも。良かったのに」
「私が嫌だったの。私が渡したかっただけだもん」
少し口を尖らせて言う。
ふっと笑って見せてから、ほんの短いキスを落とした。
「要さん?」
「ダメですか?」
いじわるっぽく聞く。彼女は赤い顔をしてふるふると首を横に振った。
本当に良かったんだよ?
だって、本当に欲しかったものは
ほら、今この腕の中。
―Fin―
→あとがき
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