「それで?どうしたんだ?」

 いつものあの河原に並んで座る。奏は俯きながらポツポツと話し始めた。

「―…教室でね、日誌を書いてたの」

 黙ってその言葉の続きを待つ。奏は言葉を選びながら、ゆっくりと話す。
 日誌を書いていて、あいつが教室に来たこと。話があると言われたこと…。

「それで?」

 少し小さい声で相槌を打つ。なんとなく、その続きの言葉は想像がついていた。

「告…白された」

 あぁ、やっぱりな。そんな気がしたんだ。

「そっか…」
「勿論、断ったよ?だけれど、雅弥くんとつ、付き合ってるだなんて言えないし…。そう思ってくれた気持ちは嬉しかったけれど、応えることも出来ないし」
「うん」
「断った後、わかったってそう言ってくれたけれど。ただ、それでもね?辛い表情させちゃったのがどうしても辛くて」

 そう言う奏はなんとも奏らしい。何に対しても、誰に対しても真っすぐな所。真剣な所。

 そういう所が好き、だから。

「でもな…」
「うん?」
「俺は、良かったよ」
「え?」

 彼女はやっと顔を上げて、目線をこちらに向ける。

「奏が…他のヤツに奪られなくてさ」

 奏の顔が一気に赤くなるのがすぐにわかった。

「あぁー…でも。焦った!」
「焦った?」
「そりゃそうだよ!うっかり教室に残しておけねーな」

 そう言って、その場に寝転がる。奏はそんな様子を見つめていた。

「…あ」
「何?どうしたの?」

 やっと、いつもの笑顔だ。

「なんでもねーよ」

 奏は少し首を傾げていたが、その内「まあ、いいか」と言って、また笑った。

「ん」
「今度は何?雅弥くん」
「手」
「手?」

 奏に向けて手を出す。その行動とその言葉に不思議がりながらも、奏は手を出した。
 その手を取ると勢い良く掴んで引き寄せる。

「きゃっ」

 バランスを崩して倒れる奏を抱きとめて、そのまま額に軽くキスをした。

「ん、よし」
「え?え?何?どうしたの?雅弥くん」

 彼女の顔は真っ赤だった。
 どんなことでも良い。彼女をこの顔にさせるのは俺だけでありたい。

「なんでもねーよ!」

 夕陽が照らす。
 俺は暫くの間、その手を身体を離さなかった。

 絶対、誰にも渡さねーから。


―Fin―

→あとがき


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