《雅弥side》


 まだ、来ない。そろそろ来てもいいんじゃないか?そう思い出すと気になって仕方ない。
 今は部活中。サッカーに集中しないとって思うけれど。

 いつから、こんなに気になるようになってしまったのか。

 その姿が、ただ1人…奏の姿が見えないだけでこんなにも気になるなんて。
 なんとなく、嫌な気分。そして、何か引っ掛かる予感のようなもの。
 気づいたら眉間に皺が寄っていたようで、チームメイトの1人に指摘されてしまった。

「…別に好きでこんな顔してるわけじゃないっつーの…」

 そう呟く。その言葉は誰かに届くわけでもなく、空気と交じり合って消える。
 と。

「―…あ」

 やっと見つけた。少し離れた所から歩いてくる奏の姿。

 なんだか、少しだけいつもと違う様子がしたけれど。
 今はその姿を見てほっとする気持ちで一杯になっていたから、それ以上は考えなかった。

 部活はもうすぐ終わる。終わったら、一緒に自転車に乗って帰ろう。


「奏」
「あ、雅弥くん!お疲れ様」

 彼女は笑顔だった。いつもの好きな笑顔。
 …のはずだった。

「…どうかしたのか?」

 顔を覗き込んで聞く。そして、さっき感じた違和感を思い出した。
 奏は何か、いつもと様子が違う気がする。

「うん?何が?」

 奏は何かを隠しているような表情をしている。

「何か、隠し事してない?俺に」
「…」

 その言葉に奏の肩が少しだけ揺れる。目線も少し落ちていた。頬も心無いしか赤い気がする。夕焼けのせいだけという感じはしない。

「言わなかったら…デコピンな」

 少しだけ意地悪を言うように言った。
 違うんだ。隠し事をしてほしくないから。奏のことは、全部わかっていたいんだ。

 だけれど、上手く言葉に出来ないから…。

「ごめん…ね?」

 その謝りの言葉に、ドキッとした。心臓を掴まれるような冷や汗が出てくるような、そんな焦りを生む。

「とりあえず、乗れよ」

 そう言って、ひとまずその場を離れることにした。


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