ある日のこと。
仕事がある程度片付いたため、部屋に戻ろうとしていた。
その途中、書斎に行かれるところだった雅季様に会った。あと、絵を描きに行くとおっしゃっていた瞬様にも。
そして、どちらにも聞かれた。
「ねえ、奏(お姉ちゃん)ってどこにいるか知ってる?」
雅季様は、奏様のお友だちに忘れ物があったと言われて渡されていたそうで、瞬様は、以前、奏様が描いているところを見たい!と言われたらしく、それで誘って絵を描きに行くおつもりだったそう。
お2人の行動はごく日常的な…自然なこと。なのに…
胸がざわついた。
こんな気持ち、抱いてはいけないとわかっているのに…。
そんな気持ちを気づかれぬよう、部屋に戻る。
「全く…参ったな…」
パタンとドアを閉めて天井を見つめた。
まさか、自分が…奏様を…。
考え出すと、冷静な判断が出来なくなる。自分の仕事はしっかりとやらなければ。
そう思いながら、特に急がなくてもいい仕事をやり始める。
何かをしていないと落ち着かなかったから。
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