「…で?どうかしたの?」
僕はわかっている。多分、『彼』に会って何か話をされたんだろう。
じっと彼女の顔を見ていたけれど、彼女はまだ俯いていた。
「さっき、ね」
「うん」
「巧くんに会って話をしていたの」
知ってると言いたかったけれど、とりあえずは彼女の話を聞くことにした。
「それでね。今度の日曜日デートしてって…」
最後の方は聞き取れないくらい小さな声だった。
僕は、少しだけ意地悪な質問をする。
「それで、奏は良いって言ったわけ?」
「そ、そんなこと言ってないよ。こ、断ったんだけれど」
奏は慌てて顔を上げて答える。その顔はやっぱり少しだけ赤かった。
「だけど?」
「まだ時間あるし考えておいてって言われて、そのまま巧くん部活に行っちゃったの…」
全く、これは油断していられないな。…巧のやつ。
「そっか。それで、奏はどうするつもりなの?」
僕のその声が少しだけ単調だったからか、奏は少しだけビクッとした。
違う、そんなことをさせたいんじゃない。
…ごめん。焦ってるんだ。
奏が取られるんじゃないかって…。
「断るつもりだよ…?」
「そっか、それなら良かった」
その言葉に安心したのか、やっと彼女はいつものように笑った。
本当に油断していられないな。こういうやつは巧だけじゃないかもしれないし。
「あ、そうだ。言うの遅くなっちゃったけれど。生徒会のお仕事お疲れ様でした」
「うん」
「じゃあ、帰る?」
彼女は僕の顔を見ながら言った。少しだけ首を傾げながら。
「…ねえ」
「うん?何?雅季くん」
「…キス、していい?」
「え!?」
多分、不安だったから。どこかに行ってしまいそうで不安だったから。
彼女の返事を待たずに、一つ軽く唇にキスをした。
「ん。じゃあ、帰ろう」
「え?え、あ、、う、うん」
彼女の顔はさっきよりも赤い。それは夕日のせいでも、巧のせいでもない。
他の誰でもない、僕のせい。
でも、それで良い。むしろ、それが良い。
とりあえず。
僕は君を手放す気なんて
これっぽっちもないから。
ね?
―Fin―
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