「あ。そうだ」
「うん?何?」
思い出したように言ってみた。実はずっと言おうと思っていたこと。タイミングを計っていたのは内緒。
「今度の土曜日、空いてるか?」
「土曜日?うん、別に何も用事はないよ?どうして?」
ちょっと不思議そうな顔で覗き込まれる。
…あんまりそんな顔近づけるなよ。困るから…。
「ちょっとな」
「えー?それも内緒なの?」
「そうだなぁ…じゃあ、内緒」
「ちぇ。今日の雅弥くんはなんかいじわるだ」
そう言いながら奏は口を尖らせる。
正直言うと、本当は言ってもいいんだけれど…ちょっと恥ずかしい。
今日の目的も、土曜日のことも。
「じゃあ、土曜日!空けておいて」
「結局何かは教えてくれないの?」
「ないしょ」
「えー」
「内緒だっつってんの」
自分でも顔が少し赤くなったのがわかった。でも、幸い気づかれてはいないようだ。奏はこっちを見ずにむくれていたから。
「まぁ、いいか。土曜日の楽しみにしておこうっと」
俺から聞き出すのを諦めたのか、笑ってそう言ってきた。
まさか。言えるわけない。
今度の日曜日が奏の誕生日で(それは勿論わかってることだろうけど)
誰よりも先にプレゼントを渡したいからって、前日の土曜日キープして、
しかも、今日そのプレゼントを買いに行くだなんて。
まさか。当の本人に言えるわけない…!
しかも。
本当は渡すだけのつもりだったけれど、巧の話を聞いたから土曜日に誘っただなんて、もっと言えない!
でも、奏はきっと気づかない。
土曜日のこと。巧のことなんてさらに。
だって、こいつはそういう奴だから。
「あ、じゃあ、ここでね!」
「お、おう。気をつけてな。転ぶなよ」
「転ばないもん!」
いつもの会話。いつもの調子。
だけど。
土曜日はちょっと違うといいな。
そんなことを考えた、晴れた休日の午後。
―Fin―
→あとがき
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