色々な部屋に行った。食堂、書斎…他の色んな部屋。
でも、そのどこにも彼女の姿はなかった。
「どこ行っちゃったのかなぁ、奏ちゃん…」
彼女が行きそうな場所…行きそうな…。
「…あ」
1つ思い当たる場所があった。なんだか、そこにいる…絶対いるような気がして、すぐに向かうことにした。
そこは…植物園だった。
植物園に入る。この独特な雰囲気が好きだ。
あの日、確か彼女はあの場所にいたはずだ…。
「奏ちゃーん」
声を出して問いかける。しかし、返事はない。
どんどん奥へ…あの場所へと歩を進めていった。
そして、彼女を見つけた。正確に言うとちょっと見えたって感じ。彼女の靴が、ね。
「…奏ちゃん?」
優しく声を掛けて覗き込む。そこには目に溢れんばかりの涙をためた彼女が座っていた。
「裕次…お兄ちゃん…どうしてここに?」
「要さんにさ、奏ちゃんが元気なさそうだって聞いてね。それで部屋に行ったんだけれど居なかったから」
「それで?ここに?」
「そう。なんだか、ここにいるんじゃないかなぁって思ったから」
そう言いながら、彼女の手を優しく取る。彼女はもう一方の手で涙を拭って立ち上がった。
「どうして?」
立ち上がると、彼女は弱々しく問いかける。その言葉に笑顔で答えた。
「前にも…ここで泣いてたからね」
それは、彼女がここに来てすぐのこと。ダイヤモンドがなくなったっていう騒動があった時、疑いをかけられていた彼女はここで泣いていた。
彼女はそっかと一言呟いた。
「で、どうしたの?学校で何かあった?」
少し俯き気味の彼女に問いかける。彼女は、奏は小さな声でぽつりぽつりと話し出した。
「友だちと…ちょっと喧嘩っていうか…言い争いしちゃって」
「うん」
「私…まだちょっとこの生活に慣れてないっていうか…そういうところあるから…」
「仲直りは?できた?」
彼女は首を横に振る。
「じゃあ、仲直りしなくちゃね」
にっこりと笑って彼女に言った。彼女は遠慮がちに顔を上げると俺の目を見てこう言う。
「出来るかな…?」
「大丈夫だよ!」
「本当に?」
「大丈夫!だって、奏ちゃんは俺の妹だもん!」
「それ、理由になってないよ、裕次お兄ちゃん」
そう言うとくすっと笑った。
「あ、笑ったなぁ」
そんな彼女を抱きしめる。いつものスキンシップのように。だけれど、気持ちは…多分兄としてじゃないと思う。きっと…。
「大丈夫だよ、心配しなくても。謝ればわかってくれるよ、奏のこと」
「…うん」
小さく彼女は頷いた。
「ありがとう、裕次お兄ちゃん。元気出た」
そして、にっこりと笑った。この笑顔。この笑顔が好きなんだ。
「うん!よし、じゃあ戻ろうか?」
「うん…の前に。お兄ちゃん、もう大丈夫だから離してよ…は、恥ずかしいよ」
そういう彼女は少しだけ顔が赤かった。
「えー、いいじゃん」
そう言って、もう1度きゅっと抱きしめる。
本当は、もう少しだけ抱きしめていたいだけ…。
「だーめ」
彼女はぐっと俺を押して腕の中から出て行った。
「でも…」
「うん?」
「ありがと…ね?」
少しだけ赤くなった顔が笑顔に包まれる。
「よし!明日しっかり話して仲直りしようっと!」
彼女は笑顔でしっかりと俺に言った。
そんな姿を見て、少しだけ顔を赤くしながら…俺は彼女と部屋に戻った。
いつか、辛かったり悲しくなったりしたら…。
今度はこの場所じゃなくて、俺の腕の中で泣いてよ。
なんて、ね?
―Fin―
→あとがき
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