「くしゅんっ」

 話していると、彼女がくしゃみをした。

「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
「暑くなってきたとはいえ、まだ夜風は冷たいですから。風邪には気をつけて下さいね」

 彼女に何か掛けてあげたいところだが…生憎何も持っていなかった。

「うーん。確かに…。じゃあ、そろそろ部屋に戻ろうかな」

 静かな庭園を見つめながら彼女は言う。
 そんな彼女を見ていたら…なんだか抱き締めたくなった。その気持ちは抑えたけど。

「では、宿題の続きですね」
「うわぁ、思い出したくなかったよ」

 悪戯っぽく笑いながら答える。

「…じゃあ、特別」
「え?」
「わからないところ、教えてあげるよ」

 本当に?と彼女は嬉しそうに言った。
 でも、そんなの口実。本当はもう少しだけ…奏と一緒に居たいと思ったから。
 そんなこと言えないけれど。

「ねえ、修一お兄ちゃん」
「なんですか?」
「それは、先生として?お兄ちゃんとして?」
「…さぁ、どっちでしょうね?」

 …そんなこと、聞くなよ。
 どっちでもないんだからさ。

「ほら、行きますよ」
「はぁい」

 庭園に夜風がまた静かに吹き抜ける。

 今夜はもう少しだけ君と一緒に…。


―Fin―

→あとがき


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