「当たり前だろう」
「え?」
ふっと蓮さんの顔が真剣になる。
ふぅっと少しだけ長い溜め息を吐くと、少し広い肩と掛かった長い髪が揺れた。
「俺が好きなのは奏だからな。乗り気なわけないだろう」
ドキンと、心臓が跳ねる音がした。
いつも蓮さんの口から聞く言葉。
運命の出会いだとか、俺の女になれだとか。
最初は迷惑だった思いも、気づけば…感覚が麻痺したような気持ち。言われないと変に思うの。
身体中で熱を帯びていく感覚。
あぁ、そっか。私…―。
「うん?どうかしたか?」
「い、いえ!その、あ、そうだ。問題、問題の続きしましょ」
黙りこんだ私を不思議そうに見る蓮さんは、いつものその人だった。
自覚してしまった気持ち。
あぁ、私、今日はちょっと眠れそうにないな。
きっと考え込んでしまうから。
まさか、
彼が好きになっていたなんて、ね。
絶対に、言えないよ。こんな気持ち。
―Fin―
→あとがき
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