「本当なんですか?」

 なんで、私はそこまで聞こうと思ったんだろう。

「あぁ、まあな」

 蓮さんもまたノートに視線を落としたまま返事をした。
 その返事は、私が思っていた以上にあっさりとしたもので。

 なんでだろう。ひどく心がズキッと軋む音がしたんだ。

「なんだ、奏。気になるのか?」
「え?」
「お前がそんな話をするなんて、珍しいからな」
「え、あ、いや…さすがに少しは気になりますって」
「そうか?」
「一応」
「そうか。まあ、これでも一応東条院家の跡取りだからな」

 カリカリと鳴るノートの上を走るペンの音。
 やけに耳に大きく聞こえたのは、自分がした質問に対して蓮さんがあまりにあっさりしていたからだろうか。

 心の奥の方で何かが急速に冷えていく。
 だけれど、どこかで熱を帯びていく気持ちもあった。

「奏」
「はい?」
「…その、なんだ」
「なんですか?」
「そ、そんなに見つめるなよ…」
「へ?」

 言われて初めて気づいたこと。
 私はずっと蓮さんの横顔を見ていたようだ。

 蓮さんは珍しく少しだけ照れたような顔をしていた。
 それを見たら、なんだかこちらまで恥ずかしくなってきて。
 顔が熱くなるのを感じた。

「まあ、なんだ。その見合いと言ってもな、話が出ているだけだしな」
「で、でも、するんでしょ?」

 なんとなくぎこちない会話が続く。

「一応、な。仕方ないだろう」
「でも、乗り気じゃないんですね」

 なんで私、こんなこと言ってるんだろ。


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