「見回りは良いんですか?修一センセ」
くすくすと笑いながら彼女はそう言う。
その言葉は、少し距離を感じるものだったけれど…だけれど、好きな響きでもあった。
彼女らしい言い方に彼女にしかない声色。
それら全てが、自分の色を染めていく。
「僕もたまにはサボります」
「センセがサボっては生徒に示しがつきませんよ」
確かにそうだと思いながら、彼女の笑い声につられて笑った。
どこか幼さの残るその笑い声も、時々妙に女性を感じたりする。
本当に狂いそうになるんだ。
「確かにそうだな」
「でしょ?」
兄になったり教師になったりする彼女の中での自分の位置。
本当はそれ以外の位置が欲しいと思ってるんだ。
とてもとても、わがままな感情。子どもみたいな感情。
「はい。終わり」
「書き終わりましたか」
「うん。じゃあ、ついでに。よろしくお願いします」
「確かに。受け取りました」
夕陽に照らされるその笑顔は変わらず、その笑顔が自分にだけ向けられていると思うと嬉しくて堪らなかった。
「ねぇ、修一センセ?」
「うん?」
「んー、やっぱ。修一お兄ちゃん」
彼女は一度言った言葉を訂正して改めて自分の名を呼んだ。
「もう、終わる?」
「え?」
「終わるなら、一緒に帰ろうよ」
夕陽のせいなのか、彼女の頬が少し赤くなっていたのか。
それは僕からはわからなかったけれど。
「じゃあ、校門で待っていて下さい」
なんでも良かったんだ。
嬉しい言葉に変わりはなかったから。
いつか、この想いを告げられたら良い。
そんなことを思ってる。
夕陽に照らされた彼女の顔は、やっぱり綺麗で
大好きな笑顔だった。
―Fin―
→あとがき
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