「でも、どうしてその子が私だってわかったの?」
「え?あぁ、気づいたのはお前がウチに来て…少し経ってからだけどな」
「だから、どうして?」

 気になって仕方ない私は雅弥くんを急かした。

「名前、聞いてたんだよ。名前だけ。奏ってな」
「そうだったんだ」
「俺もしっかり『まさや』って言ったんだけどな」
「あ、あれぇ?」
「でも、奏って名前だけじゃさ、わからねぇじゃん」
「確かに。そうだよ」

 そう言った後、雅弥くんはキッと自転車を止めた。
 それのせいで私は雅弥くんの一歩前に出る形で止まる。

「変わってなかったんだよ、奏がさ」
「変わってない?」

 夕陽に照らされた雅弥くんがやけに眩しく見えた。

「笑い方。あん時と同じ、そのまんまだったんだよ、お前」

 そう言うと雅弥くんはいつもの…屈託のない笑顔で笑った。
 夕陽の中のその笑顔は、なんだかいつもの雅弥くんとは違って見えた気がした。

「笑い方?」
「そ。それで、変わらないなって思ってさ」

 そう言うと同じくらいに自転車の車輪の音がまた鳴り出した。

「ふぅん…」

 少し嬉しそうに雅弥くんが笑っていたから。
 私もまた嬉しくなった。

「ねぇ?」
「あ?」

 いつの間にか一歩前を歩いていた雅弥くんに私はこう聞いてみた。


「私の笑顔、好きなんだ?」


 きっとその時の私は、あの日と同じ顔をしていたんだろう。


「わりぃかよ?」


 振り返った雅弥くんは照れくさそうな顔をして笑っていた。

 急いで雅弥くんの隣を歩く。雅弥くんはまだどこか照れた顔。


 私はもう半分も覚えていないその思い出を雅弥くんが覚えていてくれたこと。

 それが、私にとって何よりも嬉しいことだったんだよ?

 なぁんて。

 教えてあーげない。


―Fin―

→あとがき


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