「落ち着かない…」
「何が?」
「俺の、心音」
「…ドキドキ、してる?」
「勿論」

 彼女の栗色の髪が陽に染まる。
 ついでに風が髪を一束だけすくってから落としていった。

「どうして、言おうと思ったの?」

 こちらを見ながらそう言う彼女の頬は赤かった。

「うーん…なんでだろう」

 とぼけてみたけれど。
 本当は理由があったんだよ。


 君には、内緒だけどね。


 寄りかかっていたフェンスが、がしゃんと小さく音を立てた。
 コンクリートの地面は、触れていないけれど冷たく感じた。

 きっと、触れている体温が
 この世の全て。

 鼓動がうるさい。
 時計の秒針ほどに落ち着くのはいつになるだろう。


 でも、居心地の良い…
 この、熱。


 まだ、少しだけ…触れていたいな。


―Fin―


→あとがき


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