カツカツと聞き慣れた音が響く廊下。
きっと、今日もあの人が歩いているんだろう。
「奏様」
ほら、ね。
「なんですか?」
くるり振り返ると、少し高い位置で綺麗な銀髪が風に揺れている。
「いえ、お呼びしただけです」
前まで、そんなことを言うことなんてなかっただろう。
だからかな。まだ時々戸惑うんだ。
その言葉にも、その声にも、
その、眼差しにも。
少しだけ口角を上げて微笑むその姿は、西園寺家に来た当時の彼のものとはまるで違って。
多分、眼。それが違う。
「柊さんでも、そういうことするんですね」
「…」
少し意地悪く返事をしても、彼はすまし顔だ。
その表情は決して崩れることのない執事の顔。
でも、どこか優しい…私の好きな人の顔。
「貴女も…」
「なんですか?」
最初に名前を呼ばれた時と同じように返事をする。
あぁ、また銀色が揺れてる。
きっと、あの窓が開いているからなんだろう。
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