やっちまった。
 何が悪いって、誰が悪いって…

 今回は完璧に俺のせいです。

「ねぇ、いつまでへこんでるつもり?」
「ま、まぁまぁ…」

 酒を片手に突っ伏す俺。めちゃくちゃかっこわりぃや。
 そんな姿を見てるのは、双子の兄と親友Aくんです。
 でも…こいつらだからこそ、見せられる姿なんだよな。

 俺、彼女にはかっこつけてばかりですから。

「でも、今回は雅弥が悪い…と思うよ?俺」
「…やっぱり?」

 巧の言葉に顔を上げれば、傍でカランと音をたてた氷がひとつ。
 それは多分、もう誰も口にしない梅酒のグラス。
 ついさっきまで俺の彼女が飲んでました。

「同感。ていうか、完璧に雅弥が悪い」

 落ち込む俺に鋭い言葉の矢が刺さる。
 でも、何も言い返せない。ごもっともですから。しかし悔しいぞ。

「大好きな彼女との約束、忘れるって…ねぇ?雅季」
「…救いようもないね。ま、僕には関係ないけど」
「あのぅ…俺、今ダメージ受けすぎなんですけど。親友を励ます言葉は…」

「「ないね。自業自得だよ」」

「で、ですよねぇ…」

 行き場のない深い溜め息をひとつ。
 飲もうと思った酒はグラスにない。
 そう、俺の頭ん中みたいに空っぽなわけ。

 忘れてたわけじゃないんです。
 ただ、こう…酒飲んでテンションあがって陽気になって、つい、ね。そう、つい…

 …はい、忘れてました。

「どうしたら、いいんだよ」

 つい溢れた弱音。
 その言葉に、半ば呆れた溜め息が返ってくる。

「謝るだけ謝って、ひたすら平謝りして、彼女の怒りを身に刻んできたら?」

 ロックのウイスキーを飲みながら軽く言うオニイサン。
 知らないだろ?あいつ、意外と怖いんだぜ。
 って、ちょっと親友Aくん。俺を無視してメールですか?

「だぁあぁぁぁ…!わーったよ。全力で謝ってくる!」
「で?彼女の居場所は?」
「あ…」
「やれやれ。はい、ドジな彼氏さん」
「はぁ!?おま、巧!って、…何?」

 半分笑った口調で携帯電話を見せてきた巧。

 それを見た俺は、即行ダッシュさせていただきました。


『飛び出してごめん。…近くの公園で、ちょっとだけ反省中。』


 なんでこんな時間に公園いんだよ!
 お前に声掛けたいとか思ってる奴、何人いると思ってるんだっつーの。
 俺の自慢の彼女はなぁ、無自覚過ぎるんだ、ばかやろう。
 って、そんな状況下じゃなかったです。

 とりあえず、全力で謝るから…。
 許して…くれるか?

 俺は完全無欠のヒーローなんかじゃない。
 むしろ、欠点だらけ。
 何より、お前がいないと幸せになれない哀れな男です。

 でも。

 お前にとっての、唯一のヒーローでは、ありたいな。

 なんて、これからその間抜けなヒーローは…怒られに行くんですけど。

 夜風が涼しい。
 火照った頬に気持ちが良い。

 なぁ。仲直り出来たら、

 キス、していいか?

 やっぱり、俺さ

 お前が一番。


―Fin―

→あとがき


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