花のようだと思った笑顔が、今日はどこか曇り空。

「はぁ…」

 物憂げに吐く溜め息すら沈んだ色。
 まるで今日の天気のようだ。

「お嬢様?」

 声を掛ければ、少し驚いた風。

 ずっと…あなたの傍にいたのです。

「ごめんなさい、御堂さん…気づかなくて」
「いえ、構わないのです」

 その笑みは、しっかりと笑えていただろうか。
 あなたのように、ぎこちないものではなかっただろうか。

 一握りでも良い、私にその辛さを分けてください。

「…内緒ですが」
「え?」

 そっと耳打ちする静かな声。

「…お嬢様の大好きなタルトがあります。お紅茶と一緒にいかがですか?」

 クッと、喉元まで出かかったその言葉を飲み込んで。
 笑顔を見せるよ。

 それは、あなたと自分自身のためだ。

「…はい!」

 あぁ、その笑顔が大好きなんです。
 花のようだと思った、その笑みが。

「では、ご用意致します」

 ふわりと笑えば晴れる空。


 君の苦しみは、俺が引き受けるよ。


 そう、言えるまで。
 そう、誓えるまで。

 この手で抱けるまで。

 もうしばらくは、このままで。

 今は、その笑顔が見られれば。


―Fin―

→あとがき


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