天井見上げて吐く息は熱く、右手はぐったりと額に乗る。
「39度…」
その右手には体温計。
体調が悪いことは何となくわかっていたけれど、この熱は予想外。
あぁ、そういえば…身体の節々が痛いや。
自分でも呆れるその考え。
容易に風邪だとわかる症状なのに、どうしてわからなかっただろう。
それこそ、風邪のせいかなぁ。
「全く…呆れた。こんなんなるまで僕に隠しておくだなんて」
重たい頭を少しずらすと、視界に入ってきたのは愛しい人の姿。
呆れ顔で、おまけに眉間にシワも寄っている。
「ご、め…まさ、きくん」
「なんで君が謝るの」
「でも…」
「風邪引いたのは、たまたまでしょ?君が悪いわけじゃない」
そう言うと、私から体温計を取り上げカチャカチャと音を立てながらそれをしまった。
「折角の、デートだったの…に」
小さく小さく呟いたその声が、届いたかどうかはわからないけど。
雅季くんはふわりと頭を撫でてくれた。
「デートはいつでも、出来るしね」
そう言葉を付け加えて。
「ありがと…。でも、一緒にいると、伝染っちゃうよ、まさき…くんに」
一緒にいれるのは、不謹慎でも嬉しい。
でも、大好きな人が苦しむのは嫌。
「一緒にいたくない?」
相変わらずの表情で雅季くんは言う。
私は答える代わりに首を横に振った。
少しだけクラクラする。
そんな私を見て雅季くんはため息をひとつ。
「じゃあ、気にすることない」
でも、その目は優しかった。
「ほら、眠りなよ。またデート行けなくなるよ」
「それは、嫌…」
「…ここに、いるから」
そして、ふわりと目を覆う少しだけ冷たい手のひら。
あ、気持ち良いかも。
微睡みの中、意識が沈む間に起こったことを知らぬまま、
私はゆっくりと眠りに落ちた。
「おやすみ。その熱は僕がもらうよ」
…チュッ…
―Fin―
→あとがき
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